マネジメントをテーマに話をするときに避けることができない、「リーダーシップ」が今回のテーマです。
個性やダイバーシティなどの問題が叫ばれる今日では、メンバーをまとめるスキルは複雑化するとともに、さらに重要性を増しています。
「うちの社長にはリーダーシップがない」「新しい部長にもう少しリーダーシップがあれば…」
このような声が社内で上がることもあるかと思います。
リーダーシップに欠けた部下に対し、「もっとリーダーシップもってやりなさい!」と頭ごなしに指導しても効果は期待できません。
この記事では、リーダーシップに関する基本的な理論をご紹介するとともに、個人の資質や組織の状況に応じてどのようなリーダーシップを発揮すべきなのか、解説いたします。
リーダーシップとは何か?
「リーダーシップ」と「マネジメント」の違い
「リーダーシップ」と似た言葉に「マネジメント」があります。
この2つの違いは何でしょうか。
ドラッカーとウォーレン・ベニスは、「マネジメントは正しく行うことであり、リーダーシップは正しいことをすることである」としています。
つまり、マネジメントは結果にフォーカスし、目標を達成するための手段を考えることをいいます。
他方で、リーダーシップは目標にフォーカスし、何を達成したいのかを考えるものです。
効率的なマネジメントは揃っているけれども効果的なリーダーシップのない状態は、ある人の言葉を借りれば「沈みゆくタイタニック号の甲板に椅子をきちんと並べるようなもの」である。(R・コヴィー『7つの習慣』より)
「人を導く」リーダーシップと「自己を導く」リーダーシップ
一般的にリーダーシップというときには、「人を導く」リーダーシップのことを指します。
これを「インターパーソナルリーダーシップ」といいます。
「セルフリーダーシップ」といって「自己を導く」ためのリーダーシップもありますが、今回の記事では省略します。
枚挙にいとまがないリーダーシップ理論
タイトルに「リーダーシップ」を含む書籍の数は?
早速、話の腰を折るようですが、リーダーシップ論は百人百様で、明確な結論が出ているものではありません。
試しにAmazonでタイトルに「リーダーシップ」が含まれた書籍を探すと、7,000冊も以上見つかりました。
参照:https://www.amazon.co.jp
数えればきりがないリーダーシップ論ですが、代表的な理論を整理することはできます。
リーダーシップ論の分類
まず、リーダーシップ論の分類の仕方として、「リーダーシップ論の研究者による理論」と「実践者による持論」に大別することができます。
この記事では、タイトルのとおりマネジメントを「基礎から押さえる」ために、研究者による理論をご紹介します。
- (1) 資質論
- リーダーシップに関する古典的な理論で、「リーダーとなり得る人間は生まれながらその資質を有している」という前提のもと、リーダーにふさわしい資質(性格や能力)を探っていくものです。
- (2) 行動論
- 「リーダーとは行動によって作られるものである」という考え方のもと、良いリーダーの行動やスタイルを分析していく手法です。
- (3) 状況適合論
- 全ての状況において適応できる普遍的なリーダーシップのスタイルは存在せず、あるべきリーダー像は集団が置かれている状況によって異なるという考え方です。
現代の複雑化した社会や組織の構造の中では、絶対的なリーダーシップのあり方を観念することは難しいため、この状況適合論を基礎としてリーダーの育成を考えるべきでしょう。
リーダーシップの二次元構造
状況適合論について詳しく見ていく前に、リーダーシップの二次元構造について説明します。
リーダーシップは「仕事中心のリーダーシップ」と「人間中心のリーダーシップ」の二次元構造になっていると言われています。
「仕事中心のリーダーシップ」は、仕事(成果)により部下を引っ張っていくリーダーシップをいいます。
「人間関係中心のリーダーシップ」は、人間関係を有効的に保ちながら部下を導いていくリーダーシップです。
営業をバリバリやって成果をあげていくことで部下を引っ張っていくタイプと、目立った成果をあげているわけではないものの常に部下に気をかけコミュニケーションをとるタイプをイメージしていただくとわかりやすいでしょう。
管理職研修などでは、これら2つの役割を統合してバランスよく発揮していくことが重要であると説明されることが多いですが、実際には時間が経つにつれて2つの役割は異なる人によって分担されることになります。
つまり有能なタイプのリーダーと人間関係をうまく調整できるタイプのリーダーに分かれるということになります。
マネジメントのレベルによって必要とされるスキル
状況適合論においては、状況に応じて2つの種類のリーダーシップを使い分けることが必要であると論じられています。
ここでいう「状況に応じて」というのは何を意味するのか、具体的にご説明します。
たとえば、リーダーに必要とされるスキルは、そのリーダーが経営判断に関わる「トップマネジメント」なのか、組織の中間に位置する「ミドルマネジメント」なのか、末端に近い「ロワーマネジメント」なのかによって異なります。
ロワーマネジメントには技術的なスキルが重視され、トップマネジメントに近づくほど人間関係のスキルや物事の本質を見極めるスキルが重視されます。
組織の状況とリーダーシップ
産業・組織心理学者のフィードラーは、①リーダーとの部下との信頼関係、②タスクの構造、③リーダーの権限の強さの3つを重視し、これらの状況によって、「仕事中心型」のリーダーシップが成果を上げる場合と「人間中心型」のリーダーシップが成果を上げる場合があるとしました。
それを表したのが次の図です。
たとえば、部下との信頼関係が「良い」あるいは「悪い」場合には「仕事中心型」のリーダーシップを発揮した方が成果に繋がりますが、中程度の場合には「人間中心型」の方がよいということになります。
「引っ張る」だけがリーダ一シップだけではない
これらの基礎理論からわかるように、あるべきリーダーの姿というのは、自ら先頭に立って結果を出し、皆を引っ張っていくようなタイプだけではありません。
リーダーシップの実践
これらは一般的な基礎理論です。
しかし、おそらくここまで読んだ皆様が感じているとおり、重要なのは実践です。
これは著名な経営者が執筆した書籍や講演、身近な経営者の声などを元に、個々人が模索していくしかありません。
一例をご紹介します。
ヤマト運輸の元社長である小倉昌男氏は、自著『経営学』の中で「経営リーダー10の条件」を挙げています。
- 論理的思考
- 時代の風を読む
- 戦略的思考
- 攻めの経営
- 行政に頼らぬ自立の精神
- 政治家に頼るな、自助努力あるのみ
- マスコミとの良い関係
- 明るい性格
- 身銭を切ること
- 高い倫理観
もちろん、これが正しいと言っているわけではありません。
基本的な理論を理解し、実践者の行動をうまく取り入れながら、自分に合ったリーダーシップの形を見つけることが重要です。