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今後、今まで人間が行ってきた様々な業務がロボットやAI、ITへ代替されていくと言われています。

これまでの単純作業の価値は低下し、ロボットやAIでは創造できない仕事の価値が必然的に高まります。

AIにより代替することができない仕事、いわば「ヒューマンワーク」には2種類があると言われています。

特定の専門性を有する「プロフェッショナル」と、高度なマネジメント力を持った「ハイパージェネラリスト」です(参考:波頭亮著『組織設計概論』)。

法律事務所の経営でいえば、特定の業種や分野のソリューションに特化した弁護士(たとえば労務問題の専門型弁護士)が「プロフェッショナル」であり、弁護士や非資格者をマネジメントする経営力を持った人材が「ハイパージェネラリスト」といえるでしょう。

そして、「プロフェッショナル」と「ハイパージェネラリスト」は正当な評価と報酬を求める傾向が強く、今までのような全員一律のマネジメントシステムでは適切に動機づけができないとされています。

人材の樹木モデル

そのような中、今後求められる人材のタイプに適した成果主義的賃金が注目されています。

先日、経団連の会長が「終身雇用を続けていくのは難しい」という趣旨の発言するなど、終身雇用型の人事システムは破綻しつつあると言われています。

他方で、中途採用市場が活性していることは転職サイトのコマーシャルの増加からも明らかです。

日本型の成果主義においては、人材育成段階という土台を作る段階においては能力主義が適していますが、育った後は成果主義が適しているとされています。

これを、樹木が土に根を張って徐々に成長し、葉を生い茂らせる姿に見立てて、「人材の樹木モデル」と呼ぶことがあります。

中途採用ではそれまでの経験を前提に雇用することが多いため、基本的には成果主義的な評価制度を採り入れることになります。

人材の樹木モデル

参考:楠田丘著『日本型成果主義の基盤 職能資格制度』

完全成果主義的賃金―完全なる成果主義の導入は可能か―

内部通報制度

全ての社員に成果主義が適しているわけではなく、「プロフェッショナル」や「ハイパージェネラリスト」(及びそれらの予備軍)を中心とした特定の人材に対する導入とすべきでしょう。

また、完全な成果主義的賃金制度(賃金が成果に完全に連動する制度)は現在の労働基準法においては採用が困難です。

労働基準法では、保障給という最低限の給与の保障をしなければならず、労働時間に応じた最低賃金も支払わなければならないとされているためです。

雇用契約でなく業務委託契約を結んで労働基準法の規制を免れようとする事業者も多いですが、契約名がなんであれ、実質的に労働者である場合には労働基準法が適用される点は注意する必要があります。

さらに、前回のコラム「『成果主義』と『能力主義』の違い」で述べたとおり、成果主義にはデメリットも多々あります。

これらの点を考慮すると、完全な成果主義的賃金制度ではなく、部分的な成果主義的賃金制度の採用が現実的であり、実際に導入されているケースが多いです。

導入の注意点―賃金では全てをコントロールできない―

続いて、実際に成果主義を導入するにあたっての注意点を確認します。

成果主義で行動を管理する

そもそもなぜ成果主義を導入するのでしょうか。

制度を導入するにあたっての戦略の設定が重要です。

単に売上の変動費化等を目的とするのであれば、成果主義的賃金制度のデメリットが目立つ結果となってしまいます。

営業担当者等の歩合給の場合、「売上」や「粗利」を評価基準にすることが一般的でしょう。

当然、売上や粗利を増やすこと自体は企業を存続させるために重要ではありますが、「その営業担当者にどのような行動をさせたいのか」、「どのような行動をすることが会社の理念から望ましいといえるのか」といった点を考える必要があります。

明確な基準の設定

そうはいっても、賃金で全ての行動を管理できるわけではないことは注意すべきです。

成果主義におけるデメリットとして、「評価に直結しない行動を避ける」というものがあります。

これに対して会社は指導管理をしていくほかなく、賃金とは別のモチベート(表彰、承認等)が必要になります。

そして、成果主義的賃金制度を導入するにあたっての最大の注意点は、明確な基準の設定です。

成果に基づく客観的な評価を導入しようとしながらも、やはり経験則的な評価が含まれてしまいがちです。

数字だけで求められない部分が多いのは確かですが、可能な限り明確な基準が必要です。

評価の明確さは、成果主義的賃金で働く労働者の行動を適切に誘引することに繋がりますし、成果主義的賃金ではない労働者との関係での納得感にもつながります。

実際の導入手法―典型例は年俸制と歩合給―

成果主義的賃金を導入した企業は多数あり、その導入手法も様々ですが、一般的に考えられるのは年俸制と歩合給でしょう。

年俸制

成果主義的賃金として年俸制が取り入れられる場合、業績評価の結果が年収ベースで反映されて前年度からアップダウンする形が原則です。

たとえば、2019年は年俸1000万円だったが、その成果により2020年は800万円にも1200万円にもなりえるというものです。

ただ実際は、基本年俸(月給の12か月分)に業績格差のつく賞与部分を組み合わせ、月給部分に定期昇給などがあるような、独自の年俸制で運用されている企業が多いです。

年俸制は、目標管理とセットになることが想定されているため、職務目標が明確になる、インセンティブ効果が強く出るといったメリットがあります。

しかし、成果に現れない業務には消極的となることや、短期思考となることがデメリットとされています。

これは成果主義におけるメリットデメリットと同様です。

歩合制

歩合給は、タクシーやトラックのドライバー、保険募集人、不動産売買の仲介などの業種によく適用されています。

「出来高給」「業績給」などと呼び方は様々ですが、基本的な考え方は同じです。

次回は、成果主義的賃金制度としてもっとも導入しやすい歩合給を前提に、具体的な賃金体系設計方法をご説明いたします

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