働き方改革に関するセミナーを毎月のように行っていると、どの企業でも長時間労働は喫緊の課題であることがわかります。
長時間労働は、人件費の増加、メンタル疾患、生産性の低下など様々な問題を引き起こします。
今回は、長時間労働の原因を突き止めるための考え方をご紹介します。
長時間労働の原因を知ることが重要な理由
長時間労働対策は本当に効果がある?
長時間労働を扱うセミナーでは、残業時間を減らすための様々な方法が提示されています。
よく目にするのは、
- ノー残業デー
- 残業の届け出、事前承認制
- 残業が多い場合の管理職に対するペナルティ
などでしょうか。
では、これらの対策をすれば長時間労働は是正されるのでしょうか?
答えは、
「是正されるかもしれないし、是正されないかもしれない」
です。
まずは原因を探る
無責任に思われるかもしれませんが、要は原因を突き止めずに五月雨式に施策を打っても、うまくいくとは限らないということです。
思い当たるところはないでしょうか。
「残業を承認制にしたが、月末にまとめて実績を申請し、上長が押印するという扱いになっている」あるいは「ノー残業デーを整備したが、結局持ち帰り残業が増えている」といったことになれば、長時間労働対策として実効性はありません。
たまたま問題の原因に合った施策が実行されて期待どおりの結果が出ることもあるかもしれませんが、それは運が良かっただけあり、再び同じ問題が生じたときに効果があるとは限りません。
これが、長時間労働の原因を突き止めることが重要である理由です。
原因を検討する前に
労働時間の実態の把握する
原因を検討する前に重要なのは労働時間の実態把握です。
この点は、「なぜ働き方改革は実現できないのか?」でも詳しく解説しました。
タイムカードを見るだけではなく、管理している数字に表れていない残業時間をあぶりだすことが必要です。
たとえば、サービス残業や、持ち帰り残業、休憩時間の未取得時間などです(そもそもこれらは労働時間なので、法的には会社が把握・管理しなければいけません。)
残業時間は全員分把握する
また、残業時間はできる限り全員分を把握することが必要です。
一見結果が出ているように見えても、一部の優秀な社員や管理職に残業が集中して全体としては残業時間が減少していない場合も多いからです。
皆様もお気づきのとおり、優秀な人間には仕事が集中し、残業を強いられることが少なくありません。
管理職の場合、「部下を指導するとパワハラだと言われ、上司からは長時間労働を是正せよと言われる」という板挟みの状態になり、さらに部下に任せられない仕事を抱え込んで長時間労働に至るケースがよくあります。
しかも、法律上の管理監督者とされると残業代が出ないことが多いので、問題が顕在化しないことも多々あります。
【ケース別】長時間労働が生じる原因と対策
続いて、長時間労働が発生する原因をケース別に見ていきましょう。
優秀な従業員に仕事が集中している
優秀な人は仕事が早く片付きます。
その結果、上司は多くの仕事を任せることになります。
誰かに仕事を割り振るとき「優秀な人間にお願いしたい」と考えることは自然なことです。
となると、優秀な人に仕事を集中させないためには、結局仕事の割り振り方、つまり上司のマネジメントに問題がありそうです。
「優秀な人間に仕事を割り振るのは当たり前だ」という意見もあるでしょうが、上司の仕事には人材の育成も含まれます。
管理者にはそのことをよく理解してもらう必要があります。
部下の残業時間が多い管理者の評価を下げることにより残業時間を抑制しようとする際には、「適切に人材育成を図ることを評価の対象とする」という前提を十分にわかってもらう必要があります。
従業員が残業代を生活の当てにしている
「残業代がないと生活ができないから、残業をする。」
そんな従業員もいるかも知れません。
そこまでではなくとも、「現在の給料を下げたくない」という方は多いのではないでしょうか。
そもそも正社員が固定給だけで生活できないのであれば賃金設定などに課題がある可能性が高いので、賃金規定そのものを変える必要があるでしょう。
また、従業員が「何かを生み出すこと」ではなく「長い時間働くこと」にモチベーションを感じるようになってしまうと、企業の成長は見込めません。
そのようなケースでは、残業代を抑制するための施策ではなく、従業員が「何かを生み出すこと」にモチベーションを感じてくれるような動機付けのための施策を実行することになるでしょう。
なんとなく帰りにくい環境になっている
従業員が「自分の仕事は終わっているけど、周りの部下や先輩が残っているからなんとなく帰りにくい。ああ、この時間はなんて無駄なんだろう…」という思いで仕事をしている。
早く帰って「あいつは仕事をしないやつだ」と思われるのは嫌だし、「あいつは暇だ」と思われて仕事を増やされるのも嫌だ、といった思いがそんな環境を作っているかもしれません。
このような場合には、従業員全体を巻き込んで従業員の意識改革に取り組む必要があります。
労働時間削減、労働時間による評価から実績に対する成果への移行を、トップから明確に打ち出すことです。
このときに重要なのは、キーマンを巻き込むことです。
キーマンとは、「この人が実践するのであれば周りも動くという人間」のことです。
組織の規模や風土にもよりますが、経営者だけで組織変革を行なうのは難しい場合が多いです。
キーマン自身が長時間残業を行なってしまっている場合、キーマンに触発されて周りの人が長時間労働をしてしまったり、本当は早く帰りたい同僚や上司が帰りづらくなっている可能性があります。
そのようなケースではキーマンの残業削減から手を入れるのも一つの方法です。
最後に
長時間労働が発生する理由について解説しましたが、もちろんここに書いたことが全てではありません。
従業員が残業をする理由には様々ありますし、複数の要因が絡み合っていることも多いです。
まず、残業時間の実態を把握し、その原因を慎重に分析したうえで、対策を実行することが重要です。