自分の会社を、ゆくゆくは親族に継がせたい。
そう考える経営者の方は多いと思います。
しかし、いざ会社を親族に継がせようとする際、具体的にどういう手段をとるべきか分からないという方も多いのではないでしょうか?
実際に会社を任せるのはまだ先の話かもしれません。
しかし、事前にしっかりと対策をしておかなければ、後々お金の問題や会社経営権の問題を生じさせることになります。
本来ならば節約できた税金を支払うことになってしまうということにもなりかねません。
事業承継の3つの方法
親族に事業承継させる方法として、遺言、生前贈与、売買の3つの方法が主にあります。
今回はその中でも、早めに後継者を経営に関与させたいが、後継者が自社株を買い取る資金を十分に持っていない場合におすすめの、生前贈与という承継方法について解説します。
生前贈与のメリット
生前贈与とは、経営者が健在なうちに自社株を後継者に贈与することによって事業承継する手続です。
遺言や売買と比較して、生前贈与で事業承継するメリットは以下の4つがあります。
- 後継者の立場を安定させることができる
- 後継者が早期に経営に関与できる
- 取得時の対価が不要
- 遺留分侵害額請求権との関係で有利な面がある
1. 後継者の立場を安定させ、早期に経営に関与できる
遺言による事業承継は、後継者の立場が不安定になる面があります。
すなわち、遺言によって自社株の権利が移転する時期は、現経営者が死亡したときです。
それまでは、遺言書の内容を現経営者が撤回できてしまいます。
その結果、後継者は本当に自社株が取得できるか分からない不安定な立場に置かれることになります。
一方、生前贈与は、贈与した時点で自社株の権利が後継者に移転するため、後継者は安定的に事業承継を受けることができます。
2. 後継者が早期に経営に関与できる
また、生前贈与には、後継者が早めに経営に関与できるというメリットがあります。
すなわち、遺言の場合、現経営者が死亡するまで後継者は自社株を取得することができません。
一方、生前贈与では、経営者が健在なうちから、後継者に対して名目上のみならず、法的にも経営権を譲ることができます。
経営権を早めに承継させることは、後継者に経営に対する意識を高めさせることにもつながります。
3. 取得時の対価は不要(ただし、税金にはご注意を)
売買で自社株を後継者に承継する場合、自社株の取得対価が必要になります。
後継者は自ら取得対価の資金を調達する必要がありますので、後継者にとって大きな負担となります。
一方、生前贈与であれば、取得対価としての金銭負担が後継者に生じることはありません。
ただし、贈与税が発生する点には注意が必要です。
もっとも、生前贈与でも、贈与税の負担を極力小さくする手段があります。
暦年贈与
贈与税には、年間110万円の基礎控除という制度があります。
つまり、年間110万円までの贈与は課税対象になりません。
この制度を利用すれば、毎年110万円の範囲で株式を贈与していくことで、贈与税を抑えることが可能です。
このような贈与方法は暦年贈与と言われます。
相続時精算課税制度
相続時精算課税制度を使えば、生前贈与を受けつつ、最終的な税金額は、相続税と同じ扱いを受ける事が可能です。
相続税は、贈与税より基礎控除が大きく取られており、贈与税のように毎年110万円までの範囲に贈与額を抑える必要もありません。
そのため、税負担を抑えつつ、暦年贈与よりスピーディーに生前贈与をすることができます。
相続時精算課税の制度は、60歳以上の父母又は祖父母から、20歳以上の子又は孫に対し、財産を贈与した場合において利用できます。
また、相続時精算課税選択届出書等の書類を税務署に提出することで適用を開始でき、その後は毎年税務署に贈与税の申告が必要となります。
一度制度を利用し始めると、途中で止めることはできない点は注意が必要です。
4. 遺留分侵害額請求権との関係で有利な面がある
自社株について相続又は生前贈与を受けた後継者は、他の相続人から遺留分侵害額請求権を行使されるおそれがあります。
相続人には、最低限これだけは相続することができるとされている額(これを「遺留分」といいます。)が民法上保障されています。
遺留分侵害額請求権とは、一部の相続人のみが多くの資産を相続・贈与によって取得した結果、遺留分をもらえなくなった相続人が、相続・贈与を受けた人に遺留分を補填するだけの額を請求する権利です。
経営者の財産のうち自社株が大きな割合を占める場合、自社株を後継者に相続させることで、他の相続人の遺留分を侵害し、遺留分侵害額請求権を行使されるおそれがあります。
遺留分侵害額請求権が行使されると、後継者が他の相続人に対し、一定額を支払う必要があります。
実は、生前贈与という事業承継方法は、遺留分侵害額請求への対策となります。
遺留分侵害額の負担は、まず、遺贈によって利益を得た人が負うことになり、その後、相続と近い時期に贈与を受けている人から負担を負います。
したがって、後継者に対して早期に株式等の重要な財産を贈与することで、遺留分侵害額請求権から守ることができる可能性が高まります。
結論
事業承継は、5~10年の期間をかけて取り組む一大事業です。
現経営者・後継者の関係性や希望によっては、生前贈与ではなく遺言や売買の方が適切な場合があります。
また、どの手段にもメリットとデメリットがありますが、専門家の助言のもと計画的に事業承継を行うことで、デメリットを極力小さくすることも可能です。
事業承継を考えている経営者の方は、ぜひ一度弊所にご相談いただければと思います。