弁護士吉原

5月26日に全国の緊急事態宣言が解除され、全国的にも緊急事態宣言に基づく都道府県知事からの休業要請等も徐々に解除されることとなりました。

もっとも、「第2波」による感染蔓延の防止のために引き続き都道府県をまたぐ移動の自粛が求められるなど、警戒が続いています。

また、事業者には在宅勤務や時差出勤の活用が働きかけられています

そのような状況下で、政府は「新しい生活様式」の実践を呼び掛けています。

感染拡大が落ち着いたとしても完全に元通りの生活に戻ることはなく、新型コロナウイルスの感染防止対策は長期間に渡って実施していく必要があるでしょう。

外的環境の変化によって企業の中長期の経営計画にも変革が迫られており、このような時代を表す「アフターコロナ」という言葉もよく耳にするようになりました。

「アフターコロナ」時代に、法律問題においてはどのような変化があるでしょうか

非対面経済へ

医療の現場では、4月に初診患者のオンライン診療が解禁となりました。

営業活動も非対面が中心となり、従来であれば対面でなければできないとされていた業務も、様々なツールの普及により非対面で行うことができるようになっています。

契約締結においても、これまでのように直接会って署名・押印を行うやり方ではなく、電子契約(WEB上で行う契約)が今後さらに広まっていくでしょう。

電子契約のポイント

電子契約ツールは様々な種類があり、広告を目にする機会も多いと思います。

法的に押さえていただきたいことは、印鑑の有無は契約成立の条件ではないこと(電子契約であっても契約は法的に有効)、そして書面化しなければいけない契約は定期借地・定期建物賃貸借契約など一部に限定されていることです。

※押印があることにより、文書が真正に成立したものであると推定する効果がありますので、法的に押印に効果がないという趣旨ではありません(電子署名法第3条の「電子署名」に該当する場合、文書の真正を推定する効果が認められますが、現在の電子契約ツールは同条の「電子署名」に該当するものとしないものがあります。)

働き方の変化(成果主義への移行・メンタルヘルス)

IT

テレワークや時差出勤などの労務上の措置は、今回の事態に対応するために緊急的に行っていたケースも多いと思います。

今後はこれらが定着していくことが予想されるため、テレワーク(在宅勤務)規程の策定など、就業規則等の整備を検討する必要があります。

この点についてはこれまで情報提供をさせていただいたとおりですが、その他にも大きな変化が予想されます。

セキュリティ面

先ほどご説明した電子契約の普及などに伴ってデータがクラウド化することで、在宅時のデータ閲覧・保管等の管理上のルールの設定や、誓約書の作成など、情報漏洩上の問題点を意識する必要があります。

評価制度

また、従業員の評価の仕組みも変化していくと考えられます。

リモートワークを行っていく中で、そのような環境に対応できる従業員と、対応できない従業員とで差が生じてきます。

もし今後再びウイルスの蔓延や災害が発生し、事業継続のためにリモート対応を求められた場合、対応できるスキルや意欲があるのかは重要性を増してくるでしょう。

そして、これまでは「仕事量=労働時間」という考え方が中心でしたが、テレワークの導入などで労働時間による仕事量の把握が難しくなってくると、成果主義的賃金制度への移行の流れも出てくることが予想されます。

メンタルヘルス上の問題

さらには、テレワークの導入によりメンタルヘルス上の問題が生じるケースも増えてきています。

テレワークにおいては、「業務上の相談相手がいない」「私生活とのメリハリがつけづらい」「成果が見えづらく過重労働になりやすい」などの要因により、従業員がメンタル不調となってしまうおそれがあります。

積極的に連絡の機会を持つなどメンタル不調になる原因を除去するのは当然ですが、それに加えて、メンタルヘルス相談窓口を設置したり、ストレスチェックを導入したりするなどの対策が考えられます(なお、現在、労働者が50人以下の事業所ではストレスチェックは努力義務となっています。)

通信販売、SaaSの拡大

これまで対面による販売を中心に行ってきた事業者が、通信販売に乗り出すケースが多くなっています。

消費者に対する通信販売を行う際には、特商法など、広告表示に関する法的規制に留意する必要があります。

「SaaS(Software as a Service)」と呼ばれるようなWEB上でサービスを提供する事業を始める事業者も増加していくと思われます。

先般の債権法改正でも新設された「定型約款」などの規制もフォローしながら、ビジネスに即した利用規約の整備が必要です。

このように、新たなチャネルやビジネス展開を行う場合は、これまで検討が不要だった法規制を検討しなければならない場合が多くありますので注意が必要です。

広いオフィスは不要?

会議

リモートワークが広がり、従業員の出社や来客の頻度が少なくなることで、オフィススペースが余ってしまうケースが出てきています。

ところが、不要になったスペースができた、あるいは収入が減少したことなどを理由とする賃料の減額請求は認められない可能性が高いです。

借地借家法では、「土地若しくは建物に対する租税その他の負担の増減により、土地若しくは建物の価格の上昇若しくは低下その他の経済事情の変動により、又は近傍同種の建物の借賃に比較して不相当となったとき」が賃料増減の要件とされており(第32条)、一時的な売上の低下等では上記の事由に該当しません(もっとも、全く考慮されないというわけではありません。)。

※ただし、定期借家契約などでは賃料増減請求が排除されている契約もあるので、契約内容をご確認ください。

民法改正とのかかわり

なお、改正民法が適用される賃貸借契約(本年4月1日以降に契約が締結されたもの)では別途検討が必要です。

改正民法では、賃借物の一部が滅失「その他の事由」により使用及び収益することができなくなった場合、賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、当然に減額されるとされています(第611条1項)。

かつては減額事由が「滅失」に限定されていましたが、今回の改正により「その他の事由」という文言が追加されました。

使用不能かどうか、また賃借人の責めに帰することができない事由(いわゆる「不可抗力」)に該当するかが問題となりますが、単にスペースが余った、売上が減少したというだけではこれに該当しない可能性が高いです。

もっとも、休業要請などにより休業を余儀なくされた場合などは、借主としては検討の余地はあるでしょう(この点は今後事例が集積していくことになると思われます。)

最後に

新型コロナウイルスに関連する法律問題は幅広く、今回はそのうちの一部の概要を記載したにとどまります。

具体的な解決方法などでお困りの場合はぜひご相談ください

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