今回は、不当要求とそれに対する対応について法律的な観点から解説します。
不当要求かも?でも、すぐに法的措置は危険?
不当要求の中には、企業側に全く非がないものもあれば、企業側に非があっても、要求が過剰になっているものなど、様々なものがあります。
お客様が企業側に非があると信じている場合、お客様の要求が過度だと感じても、直ちに警察等に被害届を出したり法的手段に出るのは危険です。
警察への通報が早すぎた場合は、そのことが新たなトラブルの原因になりかねないからです。
そのため、たとえば、お客様が担当者に対して個人攻撃をしてくるような場合には、まずは「お止めいただけますでしょうか」と伝え、それでも止めなければ「これ以上続けられますと、ご対応を打ち切らざるを得なくなります」と警告し、最終的には「お止めいただけないようですので、ここで打ち切らせていただきます」と段階を経て対応を打ち切った上で、それでも態度を改めない場合に警察に通知するなどの手順を踏むのが良いでしょう。
また、お客様から暴行を加えられたり、危害を加える旨を告知されるなどして身の危険が迫っている場合には、以上の手順を踏むまでもなく警察に通報するなどの対応をお取りください。
なお、次に述べるような場合は犯罪に当たりますので頭の片隅にとどめておいてください。
不当要求が犯罪になる場合
偽計業務妨害罪(刑法233条後段)
うその噂を流したり、人をだましたりするなどして、業務を妨害するおそれのある行為をした場合、偽計業務妨害罪が成立します。
たとえば、真実ではないことを分かっていながら、店舗を特定できるような内容でSNSに「○○でコロナのクラスターが発生したから行かない方がいいよ」などの書き込みをしたような場合は、偽計業務妨害罪が成立する可能性があります。
威力業務妨害罪(刑法234条)
威力を用いて業務を妨害するおそれのある行為をした場合、威力業務妨害罪が成立します。
たとえば、飲食店等において店員に対して「自分はコロナだ」などと述べ、店員が店内消毒をせざるを得なくなり業務をストップさせた場合、威力業務妨害罪が成立する可能性があります。
信用毀損罪(刑法233条前段)
ウソの噂を流したり、人をだましたりするなどして、人や企業の社会的信頼を低下させる状態にした場合、信用毀損罪が成立します。
たとえば、店舗を特定できるような内容でSNSに「〇〇で買った飲料に異物が入っていた」などのうその書込みをしたような場合は、信用毀損罪が成立する可能性があります。
名誉毀損罪(刑法230条1項)
不特定または多数の人が認識できる状況で人の社会的評価を低下させるような事実を示し、その人の社会的評価を害する恐れを生じさせた場合、名誉毀損罪が成立します。
たとえば、企業などを特定できるような内容でSNSに「○○という店は犯罪者が経営している」などの書き込みをしたような場合は、名誉毀損罪が成立する可能性があります。
このとき、摘示された事実が真実であっても名誉毀損罪は成立し、公共の利害に関する事実でないかぎり免責されることはありません。
強要罪(刑法223条1項)
生命、身体、自由、名誉もしくは財産に害を加える旨を告知して脅迫し、または暴行を用いて、人に義務のないことを行わせたり、権利行使を妨害した場合、強要罪が成立します。
たとえば、企業側の落ち度に付け込んで土下座をさせた場合、強要罪が成立する可能性があります。
脅迫罪(刑法222条1項)
生命、身体、自由、名誉または財産に対して害を加える旨を告知して人を脅迫した場合、脅迫罪が成立します。
たとえば、企業側の落ち度に因縁をつけて、「ぶっ殺すぞ」と怒鳴り声を上げる場合や、「テレビ局やマスコミに知り合いがいる。マスコミを使って騒ぐぞ」などと伝えるような場合、脅迫罪が成立する可能性があります。
恐喝罪(刑法249条1項)
人に対して脅迫・暴行を行って畏怖させて財物を交付させた場合、恐喝罪が成立します。
たとえば、「俺は○○組のヤクザぞ。従わなかったら、どうなっても知らんぞ」などと述べてお金を巻き上げたような場合は、恐喝罪が成立する可能性があります。
なお、恐喝罪は、貸したお金を返してもらう際に暴行したというような、権利行使の手段として暴行・脅迫が用いられた場合でも成立し得る犯罪です。
以上の犯罪の他にも、状況次第では不退去罪や監禁罪、暴行罪などの犯罪が成立することがあります。
不当な要求の対応の心構え
前提
企業やその商品のファンであったとしても、感情が高ぶっているときはクレームが行き過ぎたものになってしまうこともあります。
また、悪質なクレーマーは、些細なことで揚げ足取りをして要求を通そうとしてきます。
そのため、クレーム対応や不当要求に対する対応も、丁寧な対応を心がけるるべきです。
初期対応
聞くこと、事実関係や要求を把握することを心掛けましょう。
感情的になっている人は思いつくままに話をすることが多いため、言われていることが実際にあったこと(事実)なのか、意見なのか、要求なのかを意識して聞き分ける必要があります。
また、事実関係等を正確に把握していないと、後日の対応時に言った・言わないの水掛け論になったり、「話もろくに聞けないのか!」といった別の不満に繋がることも考えられます。
このようなトラブルを回避するには、会話の内容をメモするとともに、会話を録音しておくべきです。
メモを取ることで話を整理しながらの対応が可能となり、録音することにより後で内容に漏れがないかを確認することができるからです。
要求に対する対応方針
お客様からの要求に対する回答は、1つに絞るのが良いでしょう。
応じることが可能な部分があれば日頃行っている業務の中で対応可能な範囲で最大限の回答1つに絞り、一切応じられないのであれば応じられないという回答1つに絞ります。
こうすることにより、お客様から何を言われても、決められた回答を繰り返すだけで済むようになり、気持ちも楽になります。
不当要求をしようとする者は、回答姿勢に動きが見られない場合、手を変え品を変えて揺さぶりをかけてきますが、焦る必要はありません。
これは、不当要求を実現しようとして攻めあぐねている状況なのです。
担当者としては、「会社としての決定です」と説明し、1つに絞った回答を繰り返すのです。
意見に惑わされないように
不当要求をしようとする者は、もっともらしい意見を述べて、要求についても納得させようとしてくることもあります。
意見の部分については「貴重なご意見として承ります」などと受け止めつつ、要求に対しては1つに絞った回答を繰り返すことになります。
黙って録音しても問題ない?
電話の会話を相手方に黙って録音しても、通常、無断という理由だけで証拠として使えなくなるということはありません。
もっとも、録音時の状況次第では慰謝料を請求される危険性もないわけではありません。
そこで、企業側の対応としては、たとえば、「お話の内容を正確に記録した上で、記録した内容に基づいて判断するのに必要となりますので、録音させていただきます」などと伝えて、録音の許可をもらっておくのが無難でしょう。
最後に
悪質クレーマーによる不当要求なのか、良質の顧客がたまたま感情的になって要求が過度になっているだけなのかは、区別がつきにくいです。
また、反社会的勢力の方のように交渉や脅しに慣れている方との交渉は様々なリスクが隠れています。
まずはクレーム対応の方針や相談体制を社内で整備するとともに、実際にクレームが発生した場合に弁護士に相談するなどして慎重に対応していくのが良いでしょう。