人の能力をどのように評価するかは、経営者が共通して抱える悩みの一つです。
今回は人事評価において陥りがちなバイアスについて解説いたします。
バイアスとは
人事評価や採用時の判断の重要性
多くの中小企業では、経営者ご本人が従業員の人事評価を行っていることと思います。
「優秀な人材と他の平均的な従業員の待遇にどの程度差をつけるべきか」「能力は低いが自己評価が高い従業員の評価をどうするか」「金銭よりもワークライフバランスを重視する従業員にどのような待遇を与えるべきか」など、人事評価に関する課題は尽きません。
また採用の場面では、限られた時間の中で、限られた情報を元に、「従業員を採用するかどうか」という経営上重大な決断を下さなければなりません。
そして言うまでもなく、労務上のトラブルの多くは人事評価や採用時の判断を誤ったことが発端となっています。
バイアスを知る意味
人は自分自身の偏見や先入観から逃れることはできません。
これを「バイアス」といいます。
バイアスを完全に取り去ることはできませんが、陥りがちなバイアスを知ることで、自分が下そうとしている評価を修正することは可能です。
ハロー効果
ハロー効果とは
バイアスの一種としてよく知られているのが、「ハロー効果」です。
ハロー効果とは、評価の対象となる者がある1つの面で優れているまたは劣っていると、それが全体の印象になり、他の考課要素に影響を与える傾向をいいます(ちなみに「ハロー」とは聖人の頭の上に浮かんでいる光の輪のことです)。
例として、採用の場面において、履歴書に記載されている輝かしい経歴・職歴や資格を見て、「優秀な人材だから採用すべき」と決めつけてしまうようなケースが挙げられます。
もちろん「TOEICのスコアが900点ある」という事実からは「際立った英語力を有した人材である」ということが推認されますが、英語力を必要とされる職場でない限り、自社に貢献してくれる人材ということには必ずしもなりません。
「東大を出ている」という経歴でも同じことです。
トラブル事例
労務トラブルに発展する典型例として、学歴や過去の経歴を見て喜び勇んで採用したら、実は過去の職場でもトラブルを繰り返しているモンスター社員だったというケースがあります。
このような社員は賃金も高額になることが多いので、会社の痛手はいっそう大きくなります。
一面的な情報に惑わされず、「転職回数を繰り返している」、「前職を退職した理由がはっきりしない」といったほかの考課要素に目を向けるべきでした。
中央化傾向
中央化傾向とは
「中央化傾向」とは、評価が中央(普通・標準)に集まりやすく、両極端を避けてしまう傾向をいいます。
中央化傾向は、「評価に自信がない」「部下に嫌われたくない」といった評価者の心理が原因となって生じるバイアスです。
中央化傾向の例
たとえば、AさんとBさんという2人の従業員がいるとしましょう。
本来であれば、Aさんは5段階評価で「5」、Bさんは「1」の評価を付けるべきであったとします。
中央化傾向とは、このような場合に評価者がAさんに「4」でBさんに「2」、あるいは両方に「3」の評価を付けてしまうことをいいます。
するとAさんは「頑張ったのに差が付かない」という「頑張り損」になってしまい、モチベーションの低下や離職に繋がります。
一方でBさんは大して頑張らなくてもそれなりの待遇がもらえることに気づいて努力を避けるようになり、やがて漫然と仕事をこなすだけの「ぶら下がり社員」となります。
このように不適切な評価は優秀な人材の流出に繋がるだけでなく、会社全体の生産性の低下に直結するのです。
対策
中央化傾向を避けるためには、「・・・ができればA評価、・・・ならB評価」というように評価基準を明確化・具体化することや、日頃から部下の仕事ぶりをよく観察して記録に残すことが有効であるとされています。
また、「A・B・C」あるいは「5(非常に良い)・4(良い)・3(普通)・2(悪い)・1(非常に悪い)」というように段階が奇数だと真ん中に評価が集中しやすくなります。
そこで、「1(非常に良い)・2(良い)・3(悪い)・4(非常に悪い)」というように偶数にすることで評価にメリハリがつくと言われています(一方で、真ん中の評価がないので評価基準を定めづらいというデメリットもあります。)
寛大化傾向・厳格化傾向
寛大化傾向
「寛大化傾向」とは自分の部下の評点を高めに付けてしまう傾向をいいます。
寛大化傾向は、自分のために働いてくれる部下に対する過剰な気持ちや、部下との人間関係を悪化させたくないという心情により生じるバイアスです。
厳格化傾向
逆に、評価が厳しくなることを「厳格化傾向」といいます。
厳格化傾向は、評価者が能力の高い完璧主義者である場合や、自信が強い場合に陥りがちです。
そのような人は他人に対しても自分を基準としてしまい、「なぜこんなことができないのか」と厳しい評価をしがちであるからです。
寛大化傾向や厳格化傾向を避けるためには、中央化傾向の場合と同様に評価の基準を明確にすることや、評価を数字で示すのではなく文章で記述させるといった方法が考えられます。
最後に
最近は人事評価や採用の際の評価をAIが行うサービスが登場しています。
バイアスから逃れられない人間よりも人工知能の方が適切な評価を下すことができるという考えには一理あるかもしれません。
しかし、採用や評価といった分野こそ、人の心の機微を捉えることができる人間が行うべき領域であるとも言えます。
今回の記事が、人間が陥りがちな「バイアス」を理解し、会社の永続的な発展に繋がる適切な評価を行うための一助となれば幸いです。