セクハラ防止指針の改正~使用者が気をつけなければならないこと~
2017年1月から新指針が運用
2016年、厚生労働省がセクハラ防止指針(※正式名称を「事業主が職場における性的言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」と言います。セクハラ防止のために企業が実施しなければならない措置が記載されています。)を改正しました。
そして、2017年の1月から新指針での運用が始まっています。
注目すべきは、その改正内容です。
今までのセクハラ指針
今までのセクハラ防止は、「男だから…」「女だから…」といった男女の性別役割分担の意識に基づく言動をなくすことに主眼が置かれていました。
しかし、近年、「LGBT」という新たな性に対する意識が注目されてきました。
また、就業場所においてもLGBTに対する誤った認識や差別意識による言動が問題となるケースが増えてきました。
たとえば、従来から、LGBTなどの性的少数者へのセクハラについても企業は適切に対処する必要はあったのですが、そのことが社会全体として周知徹底されておらず、性的少数者のセクハラ被害に対し、社内の相談窓口では取り合ってもらえないという事例が発生していました。
改正内容
そこで、今回、厚生労働省はセクハラ防止指針を改正し、同指針2条1項に、「被害を受けた者の性的指向又は性自認にかかわらず、当該者に対する職場におけるセクシュアルハラスメントも、本指針の対象となるものである。」との文言が追加され、LGBTなどの性的少数者がセクハラの被害者に含まれることが明記されました。
このような改正の経緯を踏まえ、企業として今後どのような措置を講じる必要があるかを具体例とともにご紹介したいと思います。
セクハラの種類
まず、前提として、セクハラは大きく分けて2種類あります。
「対価型セクシャルハラスメント」と「環境型セクシャルハラスメント」です。
①対価型セクシャルハラスメント
「対価型セクシャルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動に対する労働者の対応により、当該労働者が解雇、降格、減給等の不利益を受けることです。
典型例としては、事業主が労働者に対して性的関係を要求したが、拒否したため、解雇する場合です。
②環境型セクシャルハラスメント
「環境型セクシャルハラスメント」とは、職場において行われる労働者の意に反する性的な言動により労働者の就業環境が不快なものとなったため、能力の発揮に重大な悪影響が生じる等当該労働者が就業する上で看過できない程度の支障が生じることです。
典型例としては、上司が労働者の腰、胸等に度々触ったため、当該労働者が苦痛に感じてその就業意欲が低下している場合です。
LGBTに対するセクハラの特徴
LGBTなどの性的少数者に対するセクハラは、主に②「環境型セクシャルハラスメント」が問題になると考えられます。
ただ、注意しなければならないのは、LGBTなどの性的少数者へのセクハラが無自覚的になされている可能性がある点です。
つまり、LGBT自体がごく最近認知しはじめたものであり、従業員まで十分に理解できていない可能性があることや、LGBTであることを公表しないで働いている従業員も存在することから、知らず知らずのうちに環境型セクハラになっている可能性があるのです。※たとえば,男女別のトイレは常識かと思われますが,LGBTの方々からすると苦痛を与えているかも知れません。このような点にも意識を向けることが大切です。
企業が講じるべき措置
では、企業としては、LGBTなどの性的少数者が気持ちよく働ける環境を作るためにどのような措置を講ずればよいのでしょうか。
実際にLGBT社員への対応をしている企業の対応例を紹介します。
- トランスジェンダー(※体の性と心の性が一致しない方のことです。)への配慮
・企業への提出書類などで性別を記入する欄を廃止する。
・性別欄に「その他」という選択肢を設ける。 - 社内研修の実施
・LGBTへの従業員の意識・理解のため、LGBTに関する社内研修を実施する。 - 就業規則への明記
・就業規則等の社内規定にLGBTへの差別を行わない旨を明記する。 - 福利厚生の充実
・同性パートナーを配偶者とみなし、住宅手当や結婚お祝い金などを支給する。
このような取り組みを行っている企業が存在します。
最後に
損害賠償リスクも
職場内でのセクハラ問題が生じた場合、使用者がそれに対する措置が不十分であれば、使用者責任として損害賠償責任を負う可能性があります。
また、LGBTといったセクシュアル・マイノリティーについての問題は、さらに社会で意識されていくことでしょう。
そのような中で、企業の雇用管理上も重要な課題となっていくことが予想されます。
理解を深めることから始める
そこで、無自覚的なセクハラを防止するためにも、使用者だけではなく、従業員も含めた企業全体のLGBTに対する意識や理解を深めるところから始める必要があるでしょう。
そして、企業としては、このような問題もあることを考慮して、適切なリスクヘッジが求められるでしょう。
企業内でのセクハラ問題やセクハラ防止策で悩んでおられる方がいましたら、当事務所までご相談ください。