2022年6月に改正公益通報者保護法が施行されました。

公益通報者保護法は内部告発を行った労働者を保護する法律で、企業の不祥事を早期に発見して是正し、被害を防止することを目的としています。

今回は中小企業において内部通報窓口(ヘルプライン)を導入する意義について解説いたします。

ヘルプラインとは

弁護士荻野

昨今、コンプライアンス強化の観点から内部通報窓口(ヘルプライン)を設置する企業が増えています

弊所でも、複数の顧問先様からご依頼をいただきヘルプラインの外部委託窓口となっています。

ヘルプラインに通報されることが想定される相談として、パワハラやセクハラ等のハラスメント、経理等における不正行為、犯罪行為などがあります。

ヘルプライン導入のメリットは、これらの問題を早期に把握して必要な調査を行い、対策を講じることができる点です。

労基署、警察、裁判所などに持ち込まれる前に事態を解決することができれば会社にとって大きな利点があります。

また、違法行為への抑止力としての機能や、組織の自浄作用の向上も期待できます。

さらに、労働者にとって安心できる職場作りという観点からも、導入するメリットは大きいと思われます。

中小企業でヘルプラインが必要な理由

今回の公益通報者保護法の改正は、従業員数300人を超える事業者に対して内部通報に適切に対応するための必要な体制の整備を義務付けるもので、300人以下の企業は努力義務に留まっています。

しかし、問題の早期発見という観点でみれば中小企業でもヘルプラインを導入する意義は十分にあります

消費者庁の調査によると、事業者が不正を発見する端緒は内部通報が58.8%と最も高くなっています。

一方、「上司による日常的なチェック」は31.5に留まっており、いかに内部通報がリスクの早期発見に有効であるかがわかります。

ヘルプライン導入の実態

消費者庁によると、「内部窓口を導入している」と回答した事業者は全体の46.3%で、50人以下の事業所では9.3%、51人~100人の事業所では24.5%、101人~300人の事業所では40.2%と、事業所の規模が大きくなればなるほど導入率が高くなっています。

業種別の導入率を見ると、金融業が91.5%で圧倒的に高く、製造業(58.4%)、卸売・小売業(48.4%)、情報通信・運輸業(47.6%)、電気・ガス・熱供給・水道業(45.7%)、不動産業(43.4%)が続いています。

導入目的は「違法行為その他様々な経営上のリスクの未然防止・早期発見に資するため」が88.0%で最も多く、「従業員が安心して通報ができる環境を整備するため」(60.7%)、「企業の社会的責任(CSR)を果たしていく上で必要であるため」(41.1%)が続いています。

このように現状では中小企業で内部通報制度が浸透しているとはいいきれませんが、法改正の影響もあり、今後は導入企業が増えると思われます。

ヘルプライン導入のポイント

ヘルプラインはただ設置すればいいというものではありません。

せっかくヘルプラインを設置しても、従業員が会社からの報復を恐れて通報できないような仕組みになってしまっているなど、十分に機能していなければ意味がありません

ヘルプラインをしっかりと機能させるためには次のポイントを押さえる必要があります。

Point.01規程づくり

まずはヘルプラインに関する内部規程(内部通報制度規程)を作成する必要があります。

内部通報制度規程に定めるべきなのは次の事項です。

  • ヘルプライン設置の目的
  • 通報窓口
  • 通報の対象となる事実
  • 通報の方法
  • 通報内容の検討・調査
  • 調査において配慮すべき事項
  • 是正措置
  • 社内処分
  • 関係者の責務

通報者又は調査に協力した者が自ら不正行為に関与していた場合、その者に対する処分は減免することができるという規定を設けることもあります(これを「リニエンシー制度」といいます。)

Point.02通報先の設定

ヘルプラインを導入している会社で、その会社の経営幹部や人事部長が通報窓口となっていることがあります。

しかし、これはあまり好ましいことではありません。

なぜならハラスメントや不正行為は管理者層が当事者となることが多いからです。

また、通報窓口が自社内にあると従業員が「本当に秘密を守ってくれるのか」「自分の立場は守られるのか」と不安を抱き、「通報しづらい」と感じることは想像がつきます。

ヘルプラインの実効性を担保するためには、第三者を窓口として設定し、経営幹部から独立性を有する通報ルートを確保することが重要です。

また、ハラスメントや不正行為について日常的に対応し、当該分野に精通している弁護士等の専門家に委ねるのが望ましいといえます。

Point.03通報時の対応

通報があったときには、内部規程に基づいて調査を行い、是正措置や社内処分を検討する必要があります。

公益通報者保護法では公益通報を理由とした解雇や不利益な取扱い(降格、減給など)が禁止されていますので、その点に十分注意する必要があります。

したがって、弁護士等の専門家に調査を委ねるべきといえます。

弁護士の対応

それでは、例として、職場においてハラスメントが発生したとの通報が被害者からなされた場合、調査を依頼された弁護士はどのように調査をするべきでしょうか。

まず、弁護士としては、客観的な証拠(監視カメラ等の画像、被害者による録音データ等)の有無を調査し、証拠が存在していれば取得し、内容について調査します。

次に、当事者である被害者及び加害者、目撃者である第三者等から事情を聴取します。

その上で、客観的な証拠や当事者等の供述内容から事実を認定します。

なお、状況により、先に被害者等から事情を聴取すべき場合もありますので、調査の順序についても慎重に判断する必要があります。

最後に、認定した事実を基に、処分の必要性や、仮に処分をする場合の相当性について裁判例等を基に調査します。

弊所の解決実績

Case.01パワハラ相談事例

概要

従業員の方から、勤務先で他の従業員からパワーハラスメントを受けているとの通報がありました。

対応内容

具体的に、いつ、誰から、どういったハラスメント行為を受けたのか、その回数や該当する従業員の情報等を聴取しました。

通報者からは、加害者とされる従業員へのヒアリング調査を実施することに許可を得ていたため、通報者から聴取した通報内容を、会社の通報窓口担当者に共有し、加害者とされる従業員へのヒアリング調査の実施を依頼しました。

当事者への事実調査の結果、ハラスメント行為を目撃した者や、ハラスメント行為に至った詳細な事情を知っている第三者がいることが発覚しました。

会社には、このような調査結果を踏まえ、本件の状況を客観的に判断するために、当該第三者にもヒアリング等の調査を実施するよう、助言しました

第三者へのヒアリングの結果、通報者からの通報のとおり、ハラスメント行為があったことが発覚しました。

そのため、会社として、加害者に対しどのような措置を取るべきか、調査によって明らかとなったハラスメント行為の内容を踏まえ、助言しました

また、通報者には、調査結果と加害者に対する措置内容を報告し、事態が収拾したため、外部通報窓口としての対応も終了としました。

弁護士の見解

内部通報に対し、そもそも調査を実施すべきか、調査を実施する場合の注意点、調査終了後にどのような措置を取るかについては、弁護士の専門的な判断を拠り所としていただくことが望ましいと考えます。

また、内部通報に対して適切に対処できなかった場合、通報者が労基署や他の弁護士に相談に駆け込むなどして、会社にとって不利益な方向に事態が進んでしまう可能性もあります。

そのため、内部通報があった場合に、迅速に弁護士に相談できる環境を整えておくことが望ましいと考えます。

Case.02業務環境の改善を求める通報

概要

通報者から、当該通報者が勤務する支店において、従業員が平等に扱われていない疑いがあるため、業務環境を改善してほしいとの通報がありました。

対応内容

当該通報者から聴取した内容を勤務先の通報窓口に共有し、当該支店において事実関係の調査を実施するように助言しました。

調査の結果、通報内容のとおり、当該支店の支店長が、従業員への処遇について差別的な取り扱いを行っていることが発覚しました。

そのため、勤務先から当該支店長に改善を求めるように指導を行うよう助言を行い、従業員の不平等な取り扱いが再発しないよう、会社において、支店の労働環境をどのように把握するかという助言を行いました。

通報者には、調査結果、今後の再発防止策を報告し事態が収拾しました。

弁護士の見解

従業員間の不平等な取り扱いは、従業員の会社に対する信頼を損ない、退職者が頻発するなどして会社にとって貴重な労働力の喪失に繋がります

また、本件のような通報内容は、会社内部の通報窓口に通報することが心理的に憚られることもあるため会社の外部に通報窓口を設置し、従業員が通報しやすい環境を整えることが重要だと考えます。

弊所にご依頼いただいた際の費用について

内部通報窓口

月額費用
3万3000円~※1
初期費用(規程の整備等)
無料※2
※1 調査費用(11万円~)は含みません。
※2 複数年契約の場合に限ります。単年契約の場合は11万円~となります。

最後に

ヘルプラインの整備は企業の売上に直接結び付くものではないため、一見すると無駄なコストを掛けるように思えるかもしれません。

しかし、企業内部の問題を早期に発見して問題が大きくなる前に解決できたり、コンプライアンス違反により致命的なダメージを受ける状況を回避できるといった効果が期待できます。

ヘルプラインの設置に関心をお持ちの方はお気軽に弊所の弁護士にご相談ください。

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