労働時間

近年推進されているいわゆる「働き方改革」により、労働者の残業時間を削減すべきだと叫ばれています。

働き方改革関連法による規制のうち、割増賃金率に関する改正は中小企業においては猶予措置が適用されてきました。

しかし、2023年4月1日から猶予措置が廃止され、中小企業についても、5割以上の割増賃金の支払いが法律上要求されます

長時間の時間外労働をさせておきながら法律が定める割増賃金を支払わなければ、後になって多大な未払い賃金を請求されるおそれもあります。

今回は、残業時間に関する基礎知識と中小企業が取り組むべき措置について解説いたします。

そもそも残業時間とは

まず、「残業時間」の意味について確認しておきましょう。

割増賃金が発生する「時間外労働」とは、原則として、1日8時間または週40時間という労働法の規制範囲を超える労働を意味します。

会社で決められている就労時間を過ぎて働くことが、直ちに割増賃金の発生する時間外労働にはなるわけではないのでご注意ください。

たとえば、会社では1日7時間の就労時間が設定されているときに、1日8時間働いた場合、会社の規定する就労時間より1時間多く働いていますが、労働基準法が規定する残業時間にはならないので、割増賃金は発生しません(もちろん、時間給は発生します)。

このように会社の就労時間を超えているが、労働法の割増賃金の規制にはかからない部分の労働のことを「法内超勤」あるいは「法定内残業」ということもあります。

「残業時間」という言葉は、法内超勤と時間外労働を区別せずに使用されることがあり、用語としては曖昧なのです。

時間外労働に関する規制及び割増賃金

では、割増賃金を払えば時間外労働を制限なく行わせてよいのでしょうか?

まず、労働基準法は、時間外労働について、原則として1か月45時間以内及び1年で360時間以内という制限を課しています。

もっとも、この規制に関しては、労使協定により制限を緩和することができるとされており、1か月100時間、1年で720時間の範囲内で、上記労働基準法の規制を緩和することができます。

労使協定を結んでいるか否かにより、労働者に課すことができる時間外労働の時間が大きく変わるので、多くの企業が時間外労働の制限を緩和する労使協定(いわゆる「36協定」)を締結しているのではないでしょうか。

36協定を締結していない場合は法律の制限に違反する時間外労働をさせてしまっている可能性もありますので、一度しっかりと確認することをおすすめします。

割増賃金の規制

割増賃金が発生するパターンは3つあります。

1つ目は、ここまで述べてきた通り、労働基準法の規制を超えた時間外労働をさせた場合です。

働き方改革以前でも、時間外労働には2割5分以上の割増賃金支払うことが義務付けられていました。

2つ目は、休日に労働をさせた場合です。

法律上は、週に1回以上の休日を設けることが義務付けられているのみですが、実際には週休二日制を採用している企業がほとんどかと思います。

会社の決めた休日に労働させると、2割5分以上の割増賃金が発生します。

3つ目は、深夜(原則として午後10時から午前5時まで)に労働をさせた場合です。

休日労働と同様、2割5分以上の割増賃金が発生します。

これらの割増賃金は同時に適用されますので、休日に深夜労働をさせた場合は5割以上の割増賃金を支払う必要があります。

2023年4月から

2023年4月から、中小企業にも1か月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率5割以上の規制が適用されるようになりました

なお、月45時間を超える時間外労働は、そもそも労働基準法により制限されているので、5割の割増賃金率が問題となるのは、36協定により月の時間外労働が60時間以上に緩和されている場合です。

割増賃金規制の適用の影響

割増賃金が5割になるということは、通常生じる基本給等の1.5倍もの賃金を支払う義務が生じるということです。

これは、中小企業の人件費に大きな影響を与えるでしょう。

特に、中小企業は大企業と比べてマンパワーが少ない分、繁忙期には個々の従業員の労働力に依存せざるを得ず、労働時間が長くなってしまうこともあるでしょう。

そうすると、割増賃金率の増加は、中小企業にとってコストが大幅に増える悩みの種となります。

このようなコストの大幅な増加による影響を最小限に抑えるために、制度構築と従業員の意識の改革が必要となります

今後の対応

弁護士荒木俊太

では、中小企業の経営者が今から取り組むべきことはなんでしょうか。

まずは就業規則や雇用契約書を見直しましょう

割増賃金の計算方法が、労働基準法の要求する割増賃金に満たない場合には、不足分を支払わなければならなくなります。

万が一未払い賃金が発生すれば労使紛争に繋がるおそれが高く、多大な事務処理の労力がかかります。

就業規則が法律に適合するものであるかどうかは、一度弁護士に確認することをお勧めします。

また、従業員の実際の勤務時間・勤務状況を把握することも大切です。

タイムカードや勤怠システムでの打刻など客観的な証拠が残る形で管理するのはもちろんのこと、これらの記録上の数字が実際の労働時間を正確に反映しているか定期的にチェックすることが重要です。

さらには、特定の労働者への負担の集中を回避する仕組みづくりが必要です。

個々の労働者の就労状況を確認するのは労力がかかりますが、これをきちんと把握しておくことで、割増賃金の発生を抑え、思いがけない出費をしなくて済むことにもつながります。

労働者の実態を把握し、制度の見直しをすることで、思わぬ高額な残業代の支払いという事態にならないよう注意しましょう。

  • 荒木俊太弁護士
  • この記事を書いた弁護士

    荒木 俊太(あらき しゅんた)
    たくみ法律事務所 福岡オフィス所属
    佐賀県神崎郡出身。九州大学法学部、九州大学法科大学院を経て、弁護士登録。運送業者を始めとする複数の企業を顧問弁護士として支援し、労災、問題社員、誹謗中傷など、中小企業を取り巻く法律問題に幅広く関与。

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