弁護士荒木俊太

この数年で良く聞くようになったものの一つに「退職代行」があります。

勤務先に退職の意思を伝えることができない従業員が、弁護士や弁護士以外の代行業者に数万円の料金で依頼し、勤務先へ退職の意思を代わりに伝えてもらうというものです。

退職代行の利用は、単に言い出しづらいから代わりに退職の意思を伝えてもらうというだけでなく、その後の会社への何かしらの請求を見据えた利用のケースもあります。

たとえば、ハラスメントを理由とする損害賠償請求や、未払残業代の支払請求を退職後に予定していて、退職の意思表示の段階から弁護士に依頼している可能性もあるでしょう。

以下では、退職代行の裏に隠れている紛争の可能性と会社サイドの対応策について説明していきます。

なお、代行業者が弁護士以外の場合には注意が必要ですので、その点も併せて説明します。

退職代行の裏に隠れている紛争の可能性

わざわざ退職代行を利用するということは、従業員側として、会社との接触を控えたいとの心情だけでなく、今後の会社との紛争に備えておきたいとの思惑があることも考えられます。

特に、代行を弁護士に依頼している場合には、退職後に会社へ何かしらの請求を考えている可能性が高いです(単に意思を伝えるだけなら代行業者でも構わないからです)。

会社への請求を相談する中で、退職代行もついでに対応してもらうこととなった、というパターンもあるでしょう。

考えられる請求としては、ハラスメントを理由とする損害賠償請求や未払残業代の支払請求などが挙げられます。

ハラスメントを受けている(と感じている)従業員は会社との接触を控えたいため、退職代行のニーズは高いでしょう。

また、退職手続の中で会社がハラスメントの事実を認める言動があれば、その後の請求を有利に進めることもできます。

残業代請求についても、在籍中は言いづらいため、退職を期に請求されることが圧倒的に多いです。

退職代行と併せて弁護士に依頼する可能性は十分あります。

退職代行で退職の手続きが終わった後に弁護士から上記請求の通知が届いた」という話も少なからず聞きます。

会社の対応

退職代行であるからと言って、退職の意思表示を無視することはNGです。

特に、正式に従業員から委任状を受けた弁護士からの通知であれば、退職の意思表示はほぼ間違いなく有効と判断されるでしょう。

退職手続においては、退職証明書や離職票の作成が求められますが、後に会社にとって不利となるような記載は避ける必要があります。

たとえば、退職代行の通知の中で、「人間関係や労働環境が悪いから辞めます」「上司からの叱責に耐えられないため辞めます」「労働時間に対して給料が見合っていないので辞めます。」などの具体的な退職理由が書かれているときに、それをそのまま退職証明書や離職票に記載するのは避けるべきです。

その後に従業員から請求が来たときに、不利な証拠として使われる恐れがあるからです。

また、従業員の言っている退職理由が会社の認識と異なるのであれば、関係者への聞き取り等により事実関係を明らかにし、何らかの形で証拠化しておくのが有用です。

従業員からの請求が来てから対応しようとすると、会社に有利な証拠がすでに残っていないこともあります。

代行業者が弁護士以外の場合の注意点

代行業者が弁護士以外の場合、従業員から正式な委任状を取っていないことも多いです。

その場合、従業員に本当に退職の意思があるのかを確認すべきです。

ここで確認せずに退職を認めると、後に不当な解雇だとされて面倒なことになる可能性もあります。

なお、従業員への意思確認の際に、退職を引き止めたり、理由を問いただしたりしてはいけません。

また、弁護士以外の代行業者は、あくまで退職の意思を会社に伝えるだけであり、会社と交渉を行うことは許されません。

少しでも交渉的な要素が含まれる場合は非弁行為になり、違法です。

非弁行為とは、ざっくりした要約ですが、弁護士以外(認定司法書士等を除く。以下同じ)は見返りのために揉め事へ介入してはならないという規定です。

たとえば、

  • 退職までの有給消化について、勤務先が時期等の交渉をしたいとした場合
  • 残業代、退職金の額について交渉を要する場合
  • その他、返還物について交渉が必要な場合など、実質的に退職代行業者が交渉を行ったと認められる場合

には、非弁行為に当たります。

仮に弁護士以外の代行業者から上記のような交渉を求められたとしても、会社として応じる必要はありません。

むしろ、交渉してしまうと、その交渉結果が後々無効と判断され、会社が不利益を被るおそれもあります。

まとめ

弁護士による退職代行の通知が来たら、その裏に隠れている紛争や従業員からの請求の可能性を考えるべきです。

紛争や請求に備えて慎重に退職手続を進めるべきですし、場合によっては事実確認や証拠保全が必要となるケースもありますが、会社だけで対応することは難しいです。

また、代行業者が弁護士以外の場合、退職の意思表示を無視することはNGですが、安易に手続きを進めてよいかも慎重に判断する必要があります

法的にも実際の対応上も難しい問題ですし、実際に請求が来た場合には示談交渉や裁判への対応も必要になりますので、早い段階から弁護士に相談した上で進めるのが良いでしょう。

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