「問題社員」とは?

「問題社員」という言葉は法律上の厳密な定義があるわけではありません

一般的に以下のような特徴をもつ社員が「問題社員」と呼ばれることが多いです。

勤務態度に問題

上司の指示に従わない、業務を放棄する、周囲とトラブルを起こす

社内ルールを無視し、遅刻・欠勤が頻繁に発生する

業務能力に問題

著しく仕事の成果が低く、ミスが多い

教育や研修をしても改善が見られない

ハラスメントや違法行為

セクハラ・パワハラを繰り返す

社外での犯罪行為や社内での横領など、企業の信用を損なう行為を行う

このような問題行動がある社員が放置されると、職場全体の士気が下がったり、取引先との信頼関係が損なわれたりと、会社に大きな悪影響が出る可能性があります。

「問題社員」のタイプごとの特徴と対応方針

能力・成績不良

成果が著しく低い、ミスやトラブルが多く改善の見込みが薄い、業務上の知識・スキル習得に極端な遅れがある、という従業員です。

このタイプの従業員に対しては、OJTや研修に参加させる、目標を設定し定期的に面談する、他部署への配置転換や業務内容の見直しを検討する、などの対策が必要です。

勤務態度・規律違反

上司の指示に従わない、周囲と衝突が多い、遅刻・無断欠勤を繰り返す、社内ルールを守らない、という従業員です。

このタイプの従業員に対しては、注意・指導の内容を具体的に書面化、規則違反の場合は懲戒処分も検討、などの対策が必要です。

また、勤務不良が体調不良やメンタル面の問題である場合は、本人へのヒアリング、産業医や外部機関との連携、過重労働となっていないかのチェック、などの対策も必要です。

ハラスメント・違法行為

セクハラ・パワハラ・暴言など人権侵害行為を行う、業務と関係ない犯罪行為を犯して企業イメージを毀損する、顧客情報の漏洩や会社資産の横領をする、という従業員です。

このタイプの従業員に対しては、ハラスメント防止委員会・専門部署で対応する、事実調査を迅速かつ公正に行う、社員本人への説明、懲戒処分を検討する、などの対策が必要です。

また、被害者のケアも重要です。

すぐに解雇しても良いのか?

日本の労働法では、会社が従業員を一方的に解雇することは厳しく制限されています。

労働契約法16条では、「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない解雇は権利濫用として無効」と定められています(解雇権濫用法理)。

解雇が有効と判断される条件をまとめると、以下のとおりです。

1.会社の就業規則に定められた解雇事由に該当すること

2.その解雇事由に客観的な合理性があること

3.解雇という処分自体が社会通念上相当であること

能力不足や勤務態度不良などは解雇の事由になり得ますが、単に「平均的な労働者より成績が低い」程度では不十分です。

著しく能力が足りず、会社に重大な支障を与え、かつ、再三の指導や研修・配置転換等の対応にも関わらず改善がみられなかった・今後の改善の見込みもない、などの事情が必要です。

また、即解雇ではなく、戒告・減給・出勤停止などの、他の懲戒処分を経たうえでの解雇であったかどうか、も重要です。

解雇に至るまでの流れの一例

事実確認・証拠収集

能力不足なら、具体的な業績指標やミスの内容を記録

勤務態度不良なら、社内の目撃情報や注意した日時・回数などをメモ

ハラスメントなら被害者や周囲へのヒアリング記録

口頭・書面での指導と改善機会の提供

問題点を本人に明確に伝え、どのように改善すべきかを示す

書面化し、一定の猶予期間を設定する(「○か月以内に○○を改善」など)

配置転換や研修の実施

それでも改善が見られなければ、業務内容を再検討したり、部署を異動させるなど本人の適性を再度チェック

研修やOJTを追加で行い、フォローを強化

最終手段としての解雇

上記の手立てを尽くしても改善の見込みがない場合に解雇を検討

就業規則のどの条項に該当するのか明確にし、解雇理由書を用意

30日前の解雇予告や解雇予告手当の支給など、労働基準法上の手続にも注意

※会社として、解雇を回避するために最大限努力した、ということを客観的な資料として残すことが重要です。

退職勧奨―解雇より退職勧奨を選ぶべき?―

問題社員への対応として、「解雇」より先に「退職勧奨」を行うことも多いです。

退職勧奨とは、「会社から自主退職を提案する」ことです。

解決金を支払うことが多いですが、解雇よりも穏便に解決する可能性があり、本人が応じればトラブルになりにくいというメリットがあります。

ただし、退職勧奨が行き過ぎると、退職強要、すなわち、実質解雇とみなされる可能性があることに注意です。

過度に何度も呼び出したり、長時間説得したり、「応じなければ解雇するぞ」と脅すのはNGです。

退職勧奨で気をつけるポイント

本人の意思を尊重する

「あくまで退職を“勧める”」にとどめ、退職を強制しない

「持ち帰って検討してもらう」時間を与える

回数・時間の限度や伝え方に注意する

短期間に何十回も面談を繰り返す、1回の面談が数時間に及ぶなどは避ける

脅しや威圧的発言は避ける

※「退職しないなら解雇する」などと言い切ると、退職届を書いたとしても無効と判断される可能性がある

人格否定や侮辱的な言葉はNG

記録をきちんと残す

面談日・時間、どんな内容を話したかをメモやメールで残す(会社側が無理やり退職を迫ったわけではない、という証拠になるように)

「退職勧奨をしたけれど、本人が拒否を続けている」という場合は、安易に解雇に踏み切るのではなく、解雇要件を満たしているか再度検討が必要です。

参考裁判例

セガ・エンタープライゼス事件

成績不良者への退職勧奨後、応じなかった社員を解雇

「単に平均より下回るだけでは解雇事由にならない」として解雇無効

会社が十分な指導・教育を行わなかった点も重視

三井リース事件

中途採用者を複数部署で試したうえで研修も実施し、それでも不適応・改善なし

会社の対応は「誠実に改善機会を与えた」と認められ、解雇有効

川崎製鉄水島製鉄所事件

問題社員に「退職しないなら解雇する」と迫り、退職届を書かせた

裁判所は「退職強要」にあたると判断し、退職届は無効

つまり、「労働者の能力不足が著しいものであったと言えるか」「会社が誠実に改善のチャンスを提供したか(それにもかかわらず改善の見込みがなかったのか)」「退職を強要するような言動がなかったか」などの点が考慮されていると言えます。

最後に

問題社員への対応は、早期発見・早期対応が重要です。

また、正しい法的知識を踏まえて、会社に有利な証拠を作っていくことが必要となります。

段階に応じて適切に対応することが、後の紛争リスクの回避につながります。

労働者から裁判を起こされるなど紛争化した場合、会社側が負う手続や証明責任が非常に重いのが実情です。

莫大な未払賃金や解決金を支払わなければならないケースも少なくありません。

問題が大きくなる前に対応するために、問題社員になりうる可能性を発見したら、早い段階で弁護士等の専門家に相談することをお勧めします

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