※当記事は2017年5月時点の法令等に基づいて執筆されています。
民法改正案が衆議院本会議を賛成多数で可決し、衆議院を通過しました。
民法の中心部分である「債権法」の抜本的改正であり、企業法務に与える影響も非常に大きいです。
改正の内容は、法定利率の引き下げや、約款に関する規程の新設等多岐にわたりますが、今回は、短期消滅時効の廃止について簡単に解説します。
短期消滅時効について
現行民法は、原則として債権(請求権)の消滅時効は10年とされていますが、一部の債権については、1~3年とされていました。
これを短期消滅時効といいます。
たとえば、飲食代のツケは1年であったり、商品の売掛金債権は2年であったり、工事請負代金は3年などです。
これを今回の民法改正では、短期消滅時効を廃止し、基本的に全ての債権について、権利を行使できることを知った時から5年間、または権利を行使できる時から10年間の場合、時効によって消滅することとなりました。
これは、職業別の短期消滅時効が、前近代的な制度に由来するものであるなど、現代では合理性に疑問があり、個々の債権で時効期間が異なることによる分かりにくさから改正に至りました。
ちなみに、不法行為の損害賠償請求は3年の消滅時効であるのは変更がありませんが、人の生命または身体を害する不法行為の場合には、5年に延長されることとなりました。
従業員の残業代請求権に影響はある?
企業における短期消滅時効で最も身近なのは従業員の残業代請求権ですが、これについても影響があるのでしょうか?
従業員の賃金債権(残業代等含む)については、労働基準法115条で2年と定められています(退職手当については5年)。
今回は民法改正であり、労働基準法上の賃金債権についての消滅時効については変更される予定はありません。
しかし現行法では、従業員の賃金債権は、現行民法174条1号において1年とされており、労働基準法で特別に2年に延長されている形になっています。
それにより、民法の短期消滅時効が廃止されることに伴い、労働基準法についても改正すべきだという議論もあり、今後の議論の動向にも注意が必要です。