退職

「退職届」、「退職願」、「辞表」。会社を辞める際に従業員から提出される退職の意思表明文書には様々なものがあります。

これらのものは、法的には、辞職と依願退職(合意解約)に分類されます

言葉では聞いたことがあると思いますが、果たして両者の違いを意識して使い分けられているでしょうか?

今回は、辞職と依願退職の違いや退職金への影響などについてご説明させていただきます。

辞職と依願退職(合意解約)の違い

  辞職 依願退職
(合意解約)
撤回  できない  できる
 ※受理後はできない
退職金の減額  就業規則などに規定があれば、できる  就業規則に規定があれば、できることがある

辞職とは

辞職とは、労働者の意思で労働契約を終了させる(労働契約を解約する)ものをいいます。

ポイント① 労働者は後から撤回できない

労働者が会社に対して辞職することを伝えれば、その後、予告期間の2週間の経過により労働契約が終了します。

辞職の通知が到達すると、労働者は撤回できなくなります

ポイント② 後で争われる可能性はゼロではありません

強迫されて辞職届を書かされたとか、実際には解雇事由がないのに、あると騙されて辞職届を書かされたなどとして、事後的に争われることはあります

ポイント③ 退職金への影響

就業規則などで、自己都合退職の場合は退職金を減額するなどと定めている場合は、その規定に従い退職金を減額できます。

ただし、自己都合退職は退職金を支給しないなど、会社都合退職などの場合に比べて著しく不合理な場合には、一定額の退職金を支払わなければならなくなる可能性があります。

依願退職(合意解約)とは

依願退職(合意解約)とは、会社と労働者の合意によって労働契約を解約するものをいいます。

依願退職は、法的には合意解約に当たるものが多いため、以下では合意解約であることを前提に説明します。

ポイント① 合意成立までは撤回可能

合意が成立するまでは、依願退職の申出の撤回が可能です。

例えば、労働者が「退職願」を出したものの、会社が保留にしている間に労働者が取り下げた場合には、合意解約は成立しません。

ポイント② いつまで撤回できるか

部長クラスの方など、退職の決裁権限を持つ方が慰留などせずに受理した場合には、会社が承諾したとして、合意解約の成立が認められることが多いです。

ポイント③ 後で争われる可能性はゼロではありません

辞職の場合と同じく、強迫や騙されて退職願を書かされたなどとして、事後的に争われることはあります

ポイント④ 退職金への影響

合意解約する理由が労働者の自己都合であれば、就業規則などの規定に従い、退職金を減額できます

ただし、退職理由に自己都合と書けば足りるという訳ではなく、本当に自己都合退職かどうかが問題になります。

ポイント⑤ 退職合意書では守秘義務を盛り込みましょう

退職後すぐに競業他社に就職するなどして営業秘密を漏らされては困るという場合は、退職合意書を作るべきです。

なお、辞職の場合でも秘密保持契約を結ぶなどすれば、守秘義務を課すことができます。

退職後の競業避止義務・秘密保持義務の有効性は、退職前に労働者が従事していた業務の内容や制限の期間・範囲(地域・職種)、代償措置の有無・内容などから総合的に判断されます。

これって辞職?依願退職(合意解約)?

現場では区別がつきにくい?

悩み

労働者から、「退職します。」と言われたり、「退職願」と書いた書類が出されたりしても、それが辞職の通知なのか、それとも依願退職(合意解約)の申込みなのかはっきりしないことはよくあります。

どちらと評価されるかにより、「辞める」と言ってきた労働者との労働契約が終了するかどうかが変わる可能性がありますので、どう区別したら良いかが気になると思います。

判断ポイント

裁判実務では、退職に至るまでの諸事情を考慮して、労働者が意図した退職日に確実に退職しようとの確固たる意思をもって退職することを伝えたかどうかによって判断されます。

例えば、労働者が「今月末で辞めます。」と言ってきた場合に、親の危篤で遠方の実家に戻らなければならないなど、今月末頃に退職しなければならない客観的な事情があるような場合には、意図した退職日に確実に退職しようという確固たる意思があったと言えます。

反対に、会社側の態度によっては考え直しても良いと思いながら退職届を出してきた場合のように、確固たる意思があったとまでは言えないケースでは、「辞めます。」という発言が合意解約の申込みと評価され、撤回が認められてしまうことがあります。

裁判所はどちらかと言えば労働者よりの判断をすることが多いので、労働契約を終了させたい場合には、労働者が退職しようという確固たる意思があったと言える客観的な証拠が必要になります。

最後に

退職願を出したり引っ込めたりする問題社員は時々見かけますし、その扱いは会社にとっても悩みのタネになりがちです。

そのような労働者が出した「退職届」が果たして辞職の通知なのか、合意解約の申込みなのかの区別に悩まれた場合や、退職合意書を作成される場合は、一度弁護士までご相談ください

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