※当記事は2016年11月時点の法令等を元に執筆されたものです。
長時間労働とメンタルヘルス-2016年電通事件-
2015年12月、広告代理店の最大手である電通の新入社員が過労自殺したという大変痛ましい事件がありました。
そして、その過労自殺は労災と認定されました。
電通は違法な長時間労働の疑いで東京労働局から強制捜査を受けるに至っています。
過労自殺した新入社員は、職場の入退館記録上、1か月130時間を越える残業があったとされています。
中小企業においても長時間労働によるメンタルヘルス問題対策は重要な課題です。
労働時間の法規制の確認
そもそも労働時間とは何なのか、法規制から再度確認しておきましょう。
労働基準法上、従業員の労働時間は1日8時間、1週間40時間が上限とされています。
たとえば、これに違反して就業規則等で1日9時間の労働時間を定めた場合、最後の1時間の部分が無効になり、違反行為には罰則の規定があります。
ただし、使用者と労働者(労働者の過半数を代表するものか、労働者の過半数を組織する労働組合)が「36(サブロク)協定」を締結すれば、1日8時間・週40時間を超えて労働させることができます。
この法定労働時間を越える労働時間にも時間外限度基準という限度があり、1週間で15時間、1か月で45時間、1年間で360時間と定められています。
しかし、この時間外限度基準にも例外があり、
- 建設業、自動車運転の業務等一定の事業及び業務
- 特別事情がある
等の場合には、基準を超える時間外労働が許容されることとなっています。
現に時間外限度基準を超える36協定が定められている企業もまま見受けられるところです。
過重労働と心身の健康
長時間労働等の過重労働は心身の健康に大きく影響をあたえることは容易に想像できるところです。
長時間労働が原因で疾患を負ったり、死亡するのは「精神的」疾患に限る話ではありません。
過重労働で脳・心臓疾患を起こしたり、それに伴い死亡する事案があります。
メンタルヘルスと労災、会社の責任
精神障害の労災請求件数は、平成11年が155件であったのに対し、平成27年では1515件とほぼ10倍になっており、毎年増加傾向にあります。
支給決定件数についても、平成27年は472件(うち自殺(未遂も含む)は93件)に上ります。
平成27年に関していえば、精神障害の請求件数の多い業種として、社会保険・社会福祉業・介護事業や医療業、情報サービス業、飲食店等が挙げられます。
そして、会社での過重労働により疾患を負った場合や自殺をした場合には、会社がその責任を負う場合があります。
過去には、大学卒の新入社員である労働者が過労によって自死に追い込まれた事件(これも電通の新入社員であり、「電通事件」と言われています)で、会社に賠償を認める最高裁判決があります。
最終的には1億6800万円を支払うことで和解が成立しています。
この判決のなかで、「使用者は、その雇用する労働者に従事させる業務を定めてこれを管理するに際し、業務の遂行に伴う疲労や心理的付加等が過度に蓄積して労働者の心身の健康を損なうことがないよう注意する義務を負うと解するのが相当」と判示しています。
長時間労働と自殺との間に因果関係があるかという問題は複合的な要素を考慮しなければなりませんが、会社として従業員のメンタルヘルスケアが大きな課題になることは間違いありません。
会社としての対策
残業時間の管理、適正化
まずは残業時間がどの程度発生しているのか、過労死ラインと言われる月80時間を超えていないかをチェックする必要があります。
また、残業時間の適正化のための対策(ノー残業デー、フレックスタイム、IT環境の改善等)を検討すべきです。
残業時間を適正化することにより人件費コストをカットすることにもつながります。
メンタルヘルスチェック
改正労働安全衛生法により、常時使用する労働者に対して、1年に1回、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)を実施することが、労働者数50人以上の事業場において義務化されています。
ストレスチェック制度の導入に関しては、厚生労働省がストレスチェック制度導入マニュアルを公表していますので、50人以下の会社は義務ではありませんが、参考にしていただければと思います。
賠償責任保険
保険に加入すれば、メンタルヘルスケアに関する取り組みが不要というわけではありません。
大手保険会社からは労災賠償リスクに備える保険等も販売されており、従業員のメンタルヘルス等対策費用補償などを追加した新商品もあります。
リスク回避の面からも導入を検討することも必要でしょう。
その他
過労死等防止対策推進法の成立によりまとめられた平成28年度過労等防止対策白書において、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業所における取組内容として、
- メンタルヘルスケア対策の業務を行う担当者の選任
- 会社内での相談体制の整備
- 労働者や管理監督者への教育研修・情報提供
等があげられており、これらも参考にすべきでしょう。