下請法・独占禁止法の運用強化の一環として、2016年12月14日、下請法の運用基準が改正されました。
新聞などで話題になったところでは、2016年8月にはファミリーマートが、2017年の3月には持ち帰り弁当チェーン「ほっともっと」を展開するプレナスが、さらに、同年5月には山崎製パンが、それぞれ、下請会社に対して不当な減額をしたとして下請法違反に問われ、減額した代金の返還などが勧告されています。
このように、取締りが強化され、様々な企業への勧告がなされている下請法ですが、実は、独占禁止法という法律を補うための法律なのです。
下請法とは
下請法は、独占禁止法上の優越的地位の濫用行為に該当する行為の一部を取り上げて、類型化、具体化した法律なのです。
そのため、下請法が規制する取引類型に当たらなくても、優越的地位の濫用行為には当たるとして、排除措置命令や課徴金納付命令の対象とされる場合もあるのです。
課徴金が課されると、取引相手方との間の売上額または購入額の1%に当たる金額を国に納めなければなりません(ただし、算定額が100万円未満のときは、納付命令がされません)。
それでは、そもそも優越的地位の濫用とはどのようなものなのでしょうか。
優越的地位の濫用として問題となる行為って、どんな行為?
優越的地位の濫用行為とは、次の要件を満たす行為を言います。
- 自己の取引上の地位が相手方に優越していることを利用
- 正常な商慣習に照らして不当
- 取引の相手方に不利益を与える行為
要件①:優越的な地位の利用
取引関係にあるA社とB社を例に解説します。
B社にとって、A社との取引は非常に重要なもので、仮に取引が停止してしまえば、経営が傾いてしまうような関係だったとします。
このような場合、B社としては、たとえA社がB社に多大な無理を強いることがあっても、これを受け入れざるを得ません。
優越的な地位を利用するとは、このような場合のことを言います。
取引条件が一方にのみ有利な場合、その取引条件が自由な交渉により決まったものなのか、それとも優越的地位を利用して決まったものなのかは、判断が非常に難しいです。
そのため、優越的地位の利用があったかどうかは、非常に重要な要件になります。
優越的な地位の利用の要件は、以下の4つの事実を総合的に考慮して、相手方よりも優越していると言えるかどうかによって判断されます。
(1) B社のA社に対する取引依存度
一般に、B社の売上高全体の中でA社に対する売上高がどれくらいあるかにより判断されます。
つまり、A社に対する売上高をB社全体の売上高で割って出た割合で判断されます。
(2) 市場におけるA社の地位
市場におけるA社のシェアの大きさや順位などから判断されます。
市場の大きさは、全国規模のものからニッチなものまで様々ありますので、事案に応じた市場を考える必要があります。
(3) B社が取引先を変更する可能性
B社が取引先をA社以外の会社に切り替えるのが難しい場合や、A社以外の会社との取引を増やすのが難しい場合、A社は優越的地位にあると判断されやすくなります。
また、B社がA社との取引にあたって多額の投資をしていた場合、A社を簡単には切りにくくなるため、A社が優越的地位にあると判断されやすくなります。
(4) B社がA社と取引を続ける必要性があることを示すその他の事情
取引額や、A社の成長可能性、取引対象商品を扱うことの重要性、A社との取引がもたらす信用、A社とB社の事業規模の相違などが考慮されます。
要件②:正常な商慣習に照らして不当であること
公正な競争を阻害するおそれがある場合のことをいい、問題となる不利益の程度、行為の広がりなどを考慮して、個別の事案ごとに判断されます。
要件③:取引の相手方に不利益を与える行為
取引の相手方に不利益を与える行為であれば、あらゆる行為が対象になります。
以下では、その一例を示します。
(1) 取引と無関係の商品・サービスの購入・利用を強制するケース
うちで出した新商品をB社さんに買ってほしいなと思ってまして…。そういえば、C社さんは100ケース買うって言ってたな。このままだと、指定業者がC社さんだけになりそうだな…。
特定の仕様で商品の製造を発注する際に、商品の内容を均質にするために必要であるといった合理的な必要性から、その商品の製造に必要な原材料などを購入させる場合は、優越的地位の濫用に当たりません。
(2) 協賛金などの名目で金銭を支払わせるケース
今度、10周年セールをやるんですよ。B社さん、協賛金を出せませんか?
会社が行う催事や広告などの費用の一部を納入業者が負担するような場合で、その費用を納入業者が負担することで、納めた商品の販売促進につながるなど、納入業者に直接の利益になることがあります。
このような場合に、納入業者の負担が、直接の利益の範囲内であり、納入業者により自主的に支払われていれば、優越的地位の濫用に当たりません。
(3) 従業員の派遣要請
新規店舗のオープンセールをするのですが、どうしても人が足りなくて…。B社さん、商品の出荷・陳列を手伝ってくれませんか?
メーカーや卸売業者が、自らの意思で、消費者ニーズの把握や専門知識獲得を目的として、従業員をスーパーなどに派遣して、自社商品を店頭販売するような場合には、優越的地位の濫用には当たりません。
これは、このような場合では、メーカーや卸売業者にも従業員を派遣する利益があるためです。
(4) 正当な理由もなく、商品の受取りを拒否する
この商品、全然売れなくてさー。せっかく作ってくれたんだけど、もう要らなくなっちゃたんだよね。だから、今日からもう納品しなくていいよ。持ってきても受け取れないから。
注文した商品と異なる商品が納品された場合や、決められた納期に間に合わず、注文した商品が不要になった場合など、納品する側に責任がある場合には、優越的地位の濫用に当たりません。
(5) 正当な理由もなく、代金を減額する
今月の売上が芳しくなくて…。悪いんだけど、今までに納めてもらった分も含めて、値引きしてよ。
B社さんが納めてくれた商品Xなんだけど、季節的にもう売れないから、来週から割引販売するんだよね。うちも赤字になるけど、B社さんも負担してくれないかな。来年も同じ商品注文するからさ。代金を半分割り引いてよ。
納められた商品に欠陥がある場合や、決められた納期に間に合わず、注文した商品が不要になった場合など、納品する側に責任があり、納品日から相当の期間内に、相手側の責任の内容・程度などを考慮して相当な金額の範囲内で減額する場合には、優越的地位の濫用に当たりません。
最後に
近時、中小企業庁の「下請けGメン」による全国規模の調査が行われ、下請法違反の取締が強化されており、NHKでも特集が組まれるなど、社会的にも関心が高まっています。
優越的地位の濫用行為は上記以外にも多数あり、優越的地位の濫用に当たるかの判断は非常に難しいものです。
自社の行っている取引の取引条件が優越的地位の濫用に当たらないか、どのようにすれば未然防止できるのかなど、優越的地位の濫用に関してご相談がございましたら、弁護士に遠慮なくご連絡ください。