働き方改革の大きな変化の中で、労働基準監督署における監督指導の役割もさらに重要性が増しています。
現在、労働基準監督官は、人手不足の状態で労働基準法違反への監督指導が困難な状況にあります。
そこで、2017年5月、規制改革推進会議で、労働基準監督業務の民間委託が提言されました。
なぜ民間委託なのか?
労働基準監督官はわずか3,241人
日本全国には現在約412万の事業場があると言われています。
では、これらの事業場を監督指導する労働基準監督官は何名いるのでしょう。
2016年度の時点で、3,241名です。
年々増加傾向にあるとは言え、全国の事業場を網羅的に調査するには極めて数が少ないと言わざるを得ません。
民間委託で人手不足をカバー
実際、2016年に労働基準監督官が定期監督等を実施した事業場数は約13万件と、全事業場数の約3%に過ぎないのです 。
そこで、この人手不足を民間委託によってカバーしようという動きになったのです。
この数字を見て、「まさか自分の会社に労基署が来るわけがない・・・」そう思われる方もいらっしゃるでしょう。
しかし、そうも言ってられない時代がすぐそばまで来ています。
民間委託による影響は?
36協定未届事業場が対象
今回、民間へ委託される業務の対象は、36(サブロク)協定未届事業場に対する調査、指導です。
具体的には、民間の受託者が、36協定未届事業場への自主点検票等(36協定の締結状況、労働時間上限の遵守状況、就業規則の策定、労働条件明示の状況などの点検票等)の送付や回答の取りまとめを行い、指導が必要と思われる事業場や回答のない事業場等について、同意を得られた場合に、労務関係書類等の確認及び相談指導を実施します。
労働基準監督官は、これらに応じなかった事業場、及び、確認の結果、問題があった事業場に、必要な監督指導を実施します。
権限の違い
民間の受託者は、労働基準監督官が有する強制捜査権限等は付与されておらず、あくまで監督官業務の補助を行います。
この点から民間の受託者による指導等がどの程度通用するのかなど、その実効性の点に疑問がない訳でもありません。
しかし、確実に言えることは、従来、全事業場のうち3%にしか及んでいなかった労働基準監督の手が、民間の受託者の手によって一気に拡大するということです。
今こそ、自分の会社の労務関係をしっかりと見直すべき時ではないでしょうか。
皆さんも最低限以下の点はチェックしておきましょう。
36協定の3つのチェックポイント
そもそも36協定とは
労働基準法では、労働者の労働時間の上限を1日8時間、週40時間と定めています(法定労働時間)。
この法定労働時間を超えて、労働者に労働をさせるためには、使用者は、事業場の労使協定を締結し、それを行政官庁(労基署)に届け出なければなりません。
これがいわゆる36協定です。
チェックポイント① 労働者に時間外・休日労働を課していますか?
ここに厚生労働省の興味深いデータがあります。
このデータからわかるとおり、約半数の事業場において36協定の不認識、または誤った理解があることがわかります。
基本的な知識を正確に理解しておく必要があります。
まずは、時間外労働等を労働者に課す場合は、36協定が必要になることを覚えてください。
チェックポイント② 労使間での合意は書面でなされていますか?
次に、36協定は労使協定ですから、労働者側の合意も必要になります。
その際注意すべきは、労働者の誰と合意する必要があるのかです。
従業員の中からランダムに選んだ1名と締結しても無効になります。
「労働者の過半数で組織する労働組合」または「労働者の過半数を代表する者」との間で締結する必要があります。
また、必要事項を記載した書面で行う必要もあります。
チェックポイント③ 労働基準監督署長への届出は行っていますか?
最後に、届出を忘れずに。
上記データからもわかるとおり、届出を失念している事業場も相当数あります。
企業に対する要求は高まっています
先日、電通の社長の公判が開かれましたが、実はその中で、電通が締結していた36協定は、法律の要件を満たしておらず無効であったことが指摘されています。
電通という大企業であってもこのようなことがあるのです。
「働き方改革」が推進されている昨今、労務に関し、企業に対して要求されるものは益々増えてきます。
もちろん、それは労働者が働きやすい環境を作るためにも必要なものです。
そして、労働者が気持ちよく働ける環境を整備することで、企業としての大きな発展にも繋がります。
弁護士をご活用ください
全てのことを経営者が一人で行うことは非常に大変です。
そんなときこそ、一人で抱え込まず、私たち弁護士にご相談ください。
「すでに36協定を締結しているが、法律上有効なのだろうか」
「これから36協定を締結するがどうすればいいのだろうか」
どんなお悩みでも結構です。
また、労基署からの指導が必ずしも法的に正しいとは限らない事例も存在します。
そのような場合は、弁護士が労基署に同行することにより適切な対応をすることもできますので、労基署対応についても一度ご相談ください。