忘年会におけるトラブルの責任は?
業務ではあまり交流がない人同士でも、お酒を飲みながら話をすることでコミュニケーションがとれ、職場の人間関係が円滑になることがあります。
しかし、酒癖が悪く、アルコールの影響でトラブルを起こしてしまうような人は残念ながら一定数います。
では、会社主催の飲み会で酔った従業員が他の従業員を殴り飛ばしたら、殴った従業員のみが責任を負うのでしょうか。
あるいは、会社も何らかの責任を負うのでしょうか。
今回、東京地裁がこの問題について興味深い判決を下したので、ご紹介したいと思います。
事件の概要
東京・新橋の居酒屋で勤務していた50代の男性が、店長から忘年会に誘われました。
男性はその日は公休日だったため、当初は欠席しようとしましたが、店長から「参加しますよね?」と念押しされ、また他の従業員9名も全員参加すると言われたため、参加することになりました。
忘年会の一次会は深夜からスタートし、午前2時半頃から二次会が開催されました。
この二次会の席上で、男性が酔った同僚から仕事ぶりを非難されたため、「めんどくせえ」と言い返したところ、同僚から殴る蹴るの暴行を受け、ろっ骨骨折の重傷を負いました。
後に、同僚は傷害罪で罰金刑となり、被害を受けた男性は退職しています。
男性が同僚と勤務先を訴えたのが本裁判になります。
使用者責任とは
男性が勤務先を訴えた根拠は、民法が定める「使用者責任」です。
この使用者責任は、
- 被用者(会社従業員)が事業の執行について
- 第三者に加えた損害を賠償する責任を負う
という規定です。
従業員が仕事でミスをして第三者に損害を与えたら、会社もその責任を負う、という会社にとっては厳しい規定ですが、その背景には、「従業員によって利益を受ける会社は、従業員によって生じた損失も受けるべき」という「報償責任」の考え方があります。
さて、本件では、会社の業務外の忘年会が「業務の執行」の範囲に含まれるかが問題になりました。
裁判所の判断
東京地裁は、
- 男性が参加を店長から促され、公休日にも関わらず参加したこと
- 二次会が終電後に始まっていること
などを理由に、本件事件が発生した二次会が「事業の執行」の範囲内だと認定し、会社の責任を認めました。
つまり、二次会への参加が「実質的に」拒むことができなかったため「事業の執行」の範囲内としたのです。
判決の影響
この判決は飲み会での事件・事故について、会社が責任を負うかという判断基準に大きな示唆を与えています。
すなわち、一見業務外の印象を受ける飲み会であっても、従業員から見て参加せざるを得ない状態で行われているのであれば、そこで生じた損害について責任を負わなければならないというものです。
あくまで「実質」が重要になりますので、「形式的」に参加拒否の自由があったというだけでは足りません。
したがって、会社主催の飲み会であっても、「参加せざるを得ない」状況を作るのは危険性があります。
組織運営上でどうしても全員参加の未開が必要な場合は、従業員同士のトラブルが生じないよう十分注意を払う必要があるでしょう。