契約社員・再雇用社員の手当はどうする?
2018年6月1日、非正規雇用労働者への待遇に関する最高裁判所の判決が2つ出されました。
今後の労務管理において実務上を大きな影響を与える超重要判決です。
今回は、この2つの判決を題材に今後の非正規雇用労働者の待遇について、どのように対応すべきかを解説したいと思います。
ハマキョウレックス事件
事案の概要
運送業等を営む株式会社ハマキョウレックス(以下、「H社」といいます。)との間で、有期労働契約を締結したAが、正社員とAとの間で無事故手当その他の各手当に差があることは労働契約法20条 に違反している等を主張した事件です。
正社員と契約社員の比較
正社員と契約社員の比較 | 正社員 | 契約社員 |
職務の内容 | 業務内容、当該業務に伴う責任の程度に相違なし | |
転勤等の可能性 | あり(全国) | なし |
中核を担う可能性 | あり | なし |
基本給 | 月給制 | 時給制 |
無事故手当 | 該当者に月額:1万円 | なし |
作業手当 | 該当者に月額:1~2万円 | なし |
休職手当 | 月額:3,500円 | なし |
住宅手当 | 21歳以下:月額5,000円 22歳以上:月額2万円 |
なし |
皆勤手当 | 該当者に月額1万円 | なし |
通勤手当 | 通勤距離に応じて支給 | 限度額の範囲内で実費支給 |
家族手当 | 扶養手当を有する者に支給 | なし |
定期昇給 | 原則あり | 原則なし |
賞与 | 会社の業績に応じて支給 | 原則なし |
退職金 | 5年以上勤務した退職者に支給 | 原則なし |
この表から分かるとおり、ほぼ同じ仕事をしている正社員と契約社員でその待遇は大きく異なっています。
そして、この待遇の差が、合理的か否かの判断がなされました。
その結果が以下の表になります。
最高裁の判断
〇:適法(合理的) ×:違法(不合理)
手当項目 | 第1審 | 第2審 | 最高裁 | 手当の支給目的・性質 |
無事故手当 | 〇 | × | × | ・優良ドライバーの育成 ・安全な輸送による顧客の信頼獲得 |
作業手当 | 〇 | × | × | ・特定の作業を行った対価 |
給食手当 | 〇 | × | × | ・従業員の食事に係る補助 |
住宅手当 | 〇 | 〇 | 〇 | ・従業員の住宅に要する費用 |
皆勤手当 | 〇 | 〇 | × | ・運送業務を円滑に進めるための人員確保の必要 ・皆勤の奨励 |
家族手当 | 〇 | 判断なし | 判断なし | ・通勤に要する交通費の補填 |
定期昇給 | 〇 | 判断なし | 判断なし | - |
賞与 | 〇 | 判断なし | 判断なし | - |
退職金 | 〇 | 判断なし | 判断なし | - |
最高裁の合理性判断の方法
H社判決は、将来の転勤・出向の可能性やH社の中核を担う可能性の有無の点で、正社員と契約社員とは差異があると認定しました。
つまり、この点を考慮した上で待遇に差を設けることは不合理ではないということです。
そこで、最高裁は、手当の支給目的・性質から、上記差異に関連しない手当における相違については不合理であると判断しました。
たとえば、無事故手当は、「優良ドライバーを育成、安全な輸送による顧客の信頼獲得」がその目的であり、安全運転及び事故防止の必要性は、その労働者が将来の転勤・出向の可能性や中核を担う可能性の有無で異なるものではないと判断し、不合理であるとしました。
つまり、同じドライバーであれば、正社員・契約社員に関係なく、安全運転・事故防止は必要なのだから、そこで差を設けるのはおかしいでしょうという判断です。
長澤運輸事件
事案の概要
運送業を営む長澤運輸株式会社(以下、「N社」といいます。)において60歳の定年を迎え、その後、継続雇用制度によって有期雇用契約を締結し再雇用されたBらについて、正社員と異なる賃金体系が適用され、その結果、定年前よりも約20~24%賃金が引き下げられたことから、Bらが労働契約法20条違反等を主張した事件です。
正社員と契約社員の比較
正社員と契約社員の比較 | 正社員 | 契約社員 |
基本給 | ・在籍給:8万9100万円(在籍年数によって加算) ・年齢給:20歳から1年ごとに200円加算 |
12万5000円 |
能力給 (歩合給) |
・12tバラ車:3.70% ・15tバラ車:3.10% ・バラ車トレーラー:3.15% |
・12tバラ車:12% ・15tバラ車:10% ・バラ車トレーラー:7% |
職務給 | ・12tバラ車:8万552円 ・15tバラ車:8万2952円 ・バラ車トレーラー:8万2900円 |
なし |
精勤手当 | 5,000円 | なし |
住宅手当 | 1万円 | なし |
家族手当 | ・配偶者:5,000円 ・子1人につき:5,000円 |
なし |
役付手当 | ・班長:3,000円 ・組長:1,500円 |
なし |
超勤手当 | あり | あり ※算定基準は異なる |
賞与 | なし | 老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について、月額2万円 |
賞与 | 基本給の5か月分 | なし |
退職金 | 3年以上勤務の者に支給 | なし |
上記表のとおり、正社員と再雇用社員との間に待遇の差があることは明らかです。
もっとも、能力給は、正社員よりも再雇用社員の方が高く設定されていることから、手取りの金額が正社員より高くなる可能性もあります。
その点も踏まえて、裁判所は次のように判断しました。
第1審から最高裁までの結論比較
〇:適法(合理的) ×:違法(不合理)
手当項目 | 第1審 | 第2審 | 最高裁 |
能力給 | × | 〇 | 〇 |
職務給 | × | 〇 | 〇 |
精勤手当 | × | 〇 | × |
住宅手当 | × | 〇 | 〇 |
家族手当 | × | 〇 | 〇 |
役付手当 | × | 〇 | 〇 |
超勤手当 | × | 〇 | 差戻し |
賞与 | × | 〇 | 〇 |
最高裁の合理性判断の方法
第1審及び第2審は、手当全体について、合理的か不合理であるかを判断しています。
これは、第1審及び第2審は、Bらの賃金引き下げの金額・割合等から合理性を判断したためです。
一方で、最高裁判所は、再雇用前後の「両者の賃金の総額を比較することのみによるのではなく、当該賃金項目の趣旨を個別に考慮すべき」であると判断しました。
つまり、H社事件同様、賃金項目をその趣旨・目的から個別に判断する手法を原則的に採用しました。
両事件を踏まえた実務対応について
上記2つの最高裁判例から、実務上対応すべき点は以下の2点と考えます。
Point.01待遇格差の合理的理由
正社員と有期雇用社員との間で待遇に違いを設けている場合、職務の内容や人材活用の仕組みの違い等、その差異を合理的に説明できる根拠を明確にする。
やってはいけない!!!
私と正社員Xは同じ仕事をしているのに、なんでXのほうが待遇がいいんですか!?
うーん…。Xは正社員だからねえ~。
Point.02不合理性の判断方法
労働条件の相違は全体として不合理性を判断するのではなく、個別の項目ごとに判断する。
やってはいけない!!!
定年退職した従業員を再雇用したけど、定年前と比べて給料も数万円下がっただけだし、大丈夫だろう。
今回解説した2つの判例は、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇の差について、実務上大きな影響を与えます。
多くの会社で両者に差を設けていることでしょう。
今一度、待遇の差に問題がないか確認すべきです。
また、その差が合理的か否かは非常に難しい判断を要しますので、労務問題に精通した弁護士へご相談ください。