この1年ほどで良く聞くようになったものの一つに「退職代行」があります。
勤務先に退職の意思を伝えることができない従業員が、数万円の料金で退職代行業者に依頼し、退職代行業者が勤務先へ退職の意思を伝えるというものです。
この退職代行、弁護士からは非弁行為(=犯罪行為)の疑いが強いという意見が多数出ています。
以下では、非弁行為とはそもそも何なのか、退職代行の問題点、そして会社サイドの対応策について説明していきます。
非弁行為とは
弁護士法72条には、次の規定があります。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。
非常にざっくりとした要約ですが、弁護士以外(認定司法書士等を除く。以下同じ)は見返りのために揉め事へ介入してはならないという規定です。
具体的に言うと、弁護士以外の者は、報酬を得て法律相談や示談交渉をしてはならないということです。
代理人になってはいけません。
弁護士資格という知識の担保がない者が、他人の紛争に介入することは、その他人を害する可能性が高いため、これを禁止することが目的です。
この非弁行為を行った場合は、2年以下の懲役または300万円以下の罰金となります。
けして軽い罪ではありません。
退職代行の問題点
退職代行業者の主張
利用者の「退職をしたい」という意思を、そのまま勤務先に伝えるだけの「使者」であって「代理人」ではない、即ち非弁行為ではないという主張です。
現実的な問題
実際上、本当に意思を伝えるだけの使者であるならば、非弁行為ではないとすることは可能です。
しかし、少しでも交渉的な要素が含まれる場合は非弁行為になりますので違法です。
交渉的な要素とは
たとえば、
- 退職までの有給消化について、勤務先が時期等の交渉をしたいとした場合
- 残業代、退職金の額について交渉を要する場合
- その他、返還物について交渉が必要な場合など、実質的に退職代行業者が交渉を行ったと認められる場合
には、非弁行為に当たります。
結論
このように、使者的な対応しかできない退職代行業者に数万円を支払う、ということ自体が、私としては合理的な選択ではないと思います。
それはそれで本人の選択だとは思いますが、これに対応する会社サイドにもいろいろとリスクがあるのです。
会社側のリスク
退職意思表示の無効
退職代行業者は利用者との間で委任状などを作成しているわけではないため、本当に本人に退職の意思があるか確認する必要があります。
退職代行業者を窓口としてほしい旨の申し出があっても、本人に連絡することに問題はありません。
ここで確認せずに退職を認めると、後に不当な解雇だとされて面倒なことになる可能性もあります。
結局、会社側としても本人に直接連絡せざるを得ないですし、この一点をもって退職代行業自体が破綻しているような気もします。
交渉の無効
退職代行業者は交渉ができないという点は上述したとおりですが、それでも交渉的な対応を受ける可能性があります。
しかし、その交渉結果が有効なのか、というのは別途考えなければなりません。
本人が交渉結果に反対し、その無効を主張することも考えられるからです。
まとめ
退職代行業者から連絡があった場合、安易に対応するのは危険です。
最近出てきた業種のため、あまり裁判例の蓄積はありませんが、法律論としてはやはり違法のリスクが非常に高い業種だと思います。
実際に対応が必要になった場合は弁護士に相談されたほうがよいでしょう。