近頃、「就活ハラスメント」という言葉をときどき耳にするようになりました。
先日、大学生らが厚生労働省に就活ハラスメントに関する実態調査の実施や相談窓口の設置を求める要望書を提出した、という報道を目にされた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、就活ハラスメントの法的問題点と企業がとるべき対応について解説いたします。
就活ハラスメントと法律の規制
直接規制する法律はない
就活ハラスメントに明確な定義はありませんが、一般的に、採用面接やインターンシップなど就職活動の場で企業から応募者に対して行われる嫌がらせを意味します。
結論を先にいうと、就活ハラスメントを直接規制する法律の規定はありません。
まず、応募者は労働者と異なり労働法の規制対象となりません。
労働法は使用者と労働者の関係を規律する法律であり、労働者性が認められない応募者は法律の射程の範囲外となるからです。
先日公開された「パワハラ防止法」の指針案 でも、雇用関係にないインターンや応募者は適用対象外とされ、「必要な注意を払うよう配慮」を求めるに留められています。
民事責任・刑事責任
もっとも、応募者に対して不適切な言動が行われ、その結果として応募者が精神的損害を負ったりメンタル不調を患ったりしたようなときには、民法の不法行為に該当するとして、会社が損害賠償請求を受けるおそれがあります。
また、刑法の名誉棄損罪や侮辱罪に問われる可能性もあります。
レピュテーション・リスク
会社として無視することができないのがレピュテーション・リスクです。
不適切な採用活動が行われた事実がインターネット上の口コミサイトに書き込まれたり、面接が秘密で録音されて公開されたりすれば、企業価値が大きく損なわれ、その後の採用活動が困難になったり従業員や取引先の信頼を失うおそれがあります。
採用の際に気を付けるべきこと
雇用関係にない応募者は労働法による保護の範囲外だとご説明しましたが、当然、応募者に対するパワーハラスメントやセクシャルハラスメントに当たるような言動は避けるべきです。
人格を否定するような発言、性的な発言、男女雇用機会均等法の趣旨に反する質問(女性に結婚や出産の予定を尋ねるなどの質問)などはしないようにしましょう。
あえて威圧的な態度をとって応募者にストレスを与える、いわゆる「圧迫面接」は、直ちに違法になるものではありませんが、度を越えると損害賠償請求や刑事罰の対象となる可能性がありますので注意が必要です。
応募者への質問事項
採用面接の際、つい応募者の家族や信条といった個人的な事項を尋ねたくなることがあるかもしれません。
しかし、選考は「応募者が求人職種の職務を遂行するにあたって必要な適性や能力を有しているか」という点のみを基準にして行うべきで、本人の責任のない事項や、本来自由であるべき思想・信条にかかわることを質問すべきではありません。
同じ理由でこれらの事項をエントリーシートに記載させたり作文の題材としたりすることも避けるべきです。
質問すべきでない事項
厚生労働省は、「就職差別につながるおそれがある事項」の例として次の項目を挙げています。
本人責任のない事項の質問
- 本籍・出生地
- 家族
- 住宅状況
- 生活環境・家庭環境
本来自由であるべき事項の質問(思想・信条にかかわること)
- 宗教
- 支持政党
- 人生観・生活信条
- 尊敬する人物
- 思想
- 労働組合(加入状況や活動歴)、学生運動などの社会運動
- 購読新聞・雑誌・愛読書
これらの質問は、特に意図や悪気がなくてもついつい聞いてしまうことがあるかもしれませんが、本人の適性や能力と直接的に関係のある事項ではありませんので気をつける必要があります。
「尊敬する人物は誰ですか?」「愛読書はありますか?」などは定番の質問のようにも思われますが、質問の仕方によっては、これらも応募者の思想・信条を詮索する質問だと受け取られる可能性があります。
また、採用選考においては身元調査などを実施したり、合理的・客観的に必要性が認められない健康診断を実施したりすることは認められていません。
これらの事項はハローワークで配布されている厚生労働省発行の『公正な採用選考をめざして』という冊子に記載されていますので、面接に来る応募者も「問題のある質問だ」という認識を持っていると理解しておきましょう。
最後に
採用活動に直接携わる従業員の不適切な言動はそのまま企業の責任として捉えられてしまいます。
そこで、採用活動を行う企業においては、採用活動に携わる従業員に対して採用活動に関する事前研修を行うなどして、このようなトラブルが発生することを未然に防止しておくことがとても大切です。
多くの企業が人材不足・採用難に直面しており、今や「企業が選ぶ時代」から「企業が選ばれる時代」に入っていると言えます。
優秀な人材を採用する機会を逸しないためにも、コンプライアンスの意識を持って採用活動に取り組むべきでしょう。