今回は、従業員が新型コロナウイルス等の感染症に罹患した疑いがあるときに会社がとるべき対応について解説いたします。
医療機関での受診を命令できる?
受診命令
会社に新型コロナウイルスやインフルエンザに感染した疑いがある従業員がいるとします。
このようなとき、会社は、医療機関で診察を受けるよう従業員に命じることはできるのでしょうか。
まず、就業規則に受診命令に関する規定があれば、それが合理的な内容である限り、会社は業務命令として受診命令を出すことができます。
そこでまずは自社の就業規則の中に受診命令に関する規定があるか確認すべきです。
就業規則に受診命令に関する規定がなくても直ちに受診命令が違法となるわけではありませんが、トラブル回避の観点から、この後に説明する有給休暇の取得の推奨など別の手段を検討すべきでしょう。
受診命令はメンタル疾患が疑われる従業員がいる場合にも活用できますので、「会社は従業員に対し、会社の指定する医師への受診及びその結果の報告を命ずることができる。」といった情報を設けておくとよいでしょう。
予防接種
さらに踏み込んで、「会社がインフルエンザ等の予防接種を命じることができるか」という問題もあります。
任意の予防接種を推奨することは問題ありません。
しかし、予防接種は体質によってアレルギー反応や重篤な副作用をもたらすこともありますので、強制とすることは避けるべきでしょう。
受診を拒否されたら
では、感染の疑いがある従業員が受診を拒否したときはどうすればよいのでしょうか。
まず、自主的に休暇(有給休暇、または病欠)を取得するよう促すべきです。
会社で病気休暇制度が設けられているときには、その規定に基づいて病気休暇を取得してもらうのも一つの方法です。
健康状態が回復するまでの間において自主的な休暇取得に応じてくれれば、労務問題は別段生じません。
自主的な休暇の取得に応じてもらえない場合は、業務命令として出勤停止を命じることを検討すべきです。
ただし、従業員が感染症に罹患している疑いがあるにすぎない場合に出勤停止を命じるときは、原則として100%の賃金保証が必要です。
出勤停止命令を出すために就業規則に特別な規定がある必要はありませんが、やはりトラブルを避けるためにあらかじめ規定しておいた方が望ましいでしょう。
ウイルス感染が判明したら
続いて、検査の結果、感染症に感染していることが判明したときの対応について解説いたします。
新型コロナウイルスは2020年2月1日付で感染症法の「指定感染症」に指定されました。
これにより、労働者が新型コロナウイルスに感染していることが確認された場合は、感染症法に基づき、都道府県知事が就業制限の勧告を行うことができるようになりました。感染症法の規定に基づいて就業禁止となった場合、給与や休業手当を支払う必要はありません。
ただし、業務中に新型コロナウイルスにかかった場合など、就業制限の根拠となる感染症が労災と評価される場合には労災保険の保護対象となります。
他方、季節性のインフルエンザやノロウイルスの場合は感染症法に基づく就業制限を行うことはできませんので、従業員を休ませるためには出勤停止命令を出すしか方法がありません。
この場合、会社は休業手当として給与の60%を支払う必要があります。
最後に
今回は新型コロナウイルスが世界的に広まっていることを踏まえて、感染症にかかわる人事労務上の問題について解説いたしました。
従業員が感染症に罹患したときや罹患が疑われる従業員が出たときに慌てて対応を検討するのではなく、緊急時の社内フローを策定し、就業規則に規定を設けておくなど、事前の準備が重要です。
2月25日に厚生労働省が発表した基本方針では、感染しやすい環境に行くことを避ける、手洗い、咳エチケット等を徹底する、風邪の症状があれば外出は控え、やむを得ず外出する場合にはマスクを着用するなどの対策が推奨されています。
社内においてもこれらを徹底するとともに、事業場の湿度を適切にするなど、ウイルスの繁殖を防ぐための一般的な措置を怠らないようにしましょう。
この記事は、公開時点での情報に基づいて執筆されています。
新型コロナウイルスに関する最新の情報は、厚生労働省ホームページ、首相官邸ホームページ等をご覧ください。