弁護士吉原

この度の九州各地の豪雨に際し被害を受けられた皆様やご家族、関係者の皆様に心よりお見舞い申し上げます。

被災地の一日も早い復旧をお祈り申し上げます。

弊所としても少しでもお役に立てるよう、今回は災害に関する法律問題について解説いたします。

労務問題

新型コロナウイルス蔓延による自粛要請の際にも問題になりましたが、豪雨災害によって事業を休止せざるを得なくなったことにより従業員を休業させる場合、休業手当の支払いは必要でしょうか。

豪雨災害による被害の程度にもよりますが、事業が完全に休止せざるを得ないような状況であれば不可抗力といえ、使用者の責めに帰すべき事由による休業とはいえないので、その間に休業させた従業員への休業手当の支払いは不要です。

ただ、事業所の一部や、他の事業所での就労が可能である場合や、テレワークでの勤務ができる場合などは、不可抗力の判断の前提として検討すべきだと思われます。

その他災害時に問題となる労務問題については「給与はどうなる?地震、台風、豪雨など非常時の労務問題」をご覧ください。

賃貸物件に関する問題

賃貸物件に破損や損傷が生じた場合

豪雨災害によって賃貸物件である事業所に破損や損傷が生じ、修繕の必要性が発生した場合においては、天災等の不可抗力によるものであっても当然賃貸人に対して修繕を求めることができます。

これは、賃貸人には賃借人に使用収益させる義務があるためです。

また、賃貸人による修繕を待っていては事業の再開が遅れるなどの理由で賃借人が自ら修繕を行った場合には、修繕費を請求することができます(民法608条1項)。

これを「必要費償還請求」といいます。

4月に施行された新民法でも、急迫の事情があるとき等に賃借人による修繕権(民法607条の2)が条文化されています。

浸水等によって賃借物件が使用できない場合には、賃料が減額されます(民法611条1項)。

物件全てが使用できない状態であれば使用できなかった期間の賃料が全額減額されます。

雨漏りなどによって一部のみ使用できない状態であれば、使用できなくなった面積などに応じて、使用不能部分に対応する範囲で賃料が減額されます。

賃貸人に過失がある場合

以上は、使用収益ができなくなったことについて賃借人に過失がない場合を前提にしております。

他方で、賃貸人側が配水管の清掃や点検などを怠っていたなどの理由により損害が発生した場合には、営業損害や代替物件の使用料などを損害として検討することになります。

賃貸借契約においては民法の規定を修正する特約がなされている場合もありますので、契約書の内容をご確認ください

取引関係に関する問題

今回の豪雨災害によって、商品を納める期限に間に合わなかったケースなどもあると思われます。

納期に遅れている以上は契約の履行遅滞が発生していることになりますが、災害による不可抗力のものであるとして、履行遅滞の損害賠償責任(遅延損害金等)は発生しないこととなります。

注文者側の立場の事例としては、納期に間に合わず、今後の納品の見通しも立たない場合などはどのように対応したらよいでしょうか。

不可抗力である場合は、その状態が解消されるまでは相手に損害賠償請求等もすることは基本的にできません。

しかし、契約を解消し、別の取引先に発注したいというケースもあると思われます。

このような状態を解消させるために、新民法では、債務不履行という状況があれば、債務者に帰責事由(責任)がない場合にも、契約の解除をすることができるものとしています(新民法第541条、第542条)。

これにより、債務の履行の目処が立たない場合に、契約に拘束され続ける状況から解放されることになります。

ちなみに、金銭債務(銀行に対する返済等、金銭を支払う債務)については不可抗力であったとしても責任を免れることができないのでご注意ください(民法419条3項)。

最後に

九州では毎年のように豪雨災害に見舞われており、特に今回は新型コロナウイルスの影響もある中での自然災害ということもあり、深刻なダメージを受けた企業も多いと思われます。

早期の復旧をこころよりお祈り申し上げます。

豪雨災害における問題についてご不明な点がありましたら、弊所に遠慮なくご相談ください。

本文内に新民法についての記述がありますが、基本的に施行日(2020年4月1日)前に締結された契約や生じた債権債務には旧法が適用されますのでご注意ください。

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