悩み

企業からの相談で最も多い相談のひとつが、「従業員に対して懲戒処分をしたいが、どのように進めていけばよいかわからない」というものです。

懲戒処分については、違反行為をした従業員に対して企業が行うもの、という漠然としたイメージをお持ちの方が多いと思いますが、根拠となる規定を欠く懲戒処分や違反行為に対する相当性を欠く懲戒処分には大きなリスクが伴います。

今回は従業員の非違行為が発覚したときに法律に基づいて適切に懲戒処分を行うためのポイントをご説明します。

懲戒処分とは?

「懲戒処分」とは、企業が従業員に対して行う不利益的措置のうち、企業秩序を乱したことに対する制裁の意味をこめて行う処分の総称をいいます。

懲戒処分には、従業員の被る不利益の程度に応じて、戒告、けん責、減給、出勤停止、降格、諭旨解雇、懲戒解雇があります。

それぞれ次のような内容の処分です。

戒告

口頭で注意をし、反省を促すものです。

懲戒処分の中では最も軽微な処分です。

けん責

同様の行為を再度行わないことを誓約させ、始末書の提出を命じるものです。

減給

賃金の一部を減らすものです。

ただし、従業員の生活を保障するために減額できる金額には法律により上限が設けられています。

具体的には、1回の減給の額が平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数の減給を行う場合はその総額が一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えてはならないとされています(労働基準法第91条)。

出勤停止

一定期間、出勤を禁止するものです。

出勤停止期間中の従業員には賃金を支払う必要はありません。

出勤停止の期間について法律上の定めはなく、懲戒事由の重大性に応じて10日から2週間程度とされることが一般的です。

降格

役職や職位を引き下げるものです。

降格は必ずしも給与の減額を意味するものではありませんが、結果的には減給を伴う場合がほとんどです。

諭旨解雇

企業と従業員が協議しながら解雇を進めるものです。

懲戒解雇とは従業員に自主退職の機会が与えられる点が異なり、退職金も一部減額で支給されることが一般的です。

懲戒解雇

企業が労働契約を一方的に解消するものです。

懲戒処分の中で一番重い処分であり、通常、解雇予告手当は支給されず即日解雇となり、退職金も支給されないことが大半です。

懲戒処分が法律上有効となるためのポイント

では、企業はこのような懲戒処分を自由に選ぶことができるのでしょうか。

そうではありません。

懲戒処分が法律上有効となるためには、次のような要件を充たすことが必要です。

①就業規則等への記載

懲戒処分は、その処分を行うための根拠規定が存在していることが必要です。

就業規則を作成している企業では、就業規則の中に懲戒処分に関する条項を入れ、懲戒処分の種類や懲戒事由、処分を行う際の手続きについて規定をしておかなければなりません。

就業規則が有効になるためには、所轄労働基準監督署への届出と従業員への周知が必要です。

届出だけ行って適切に周知がされていない場合には就業規則が無効と判断され、それに基づいて行われた懲戒処分も効力を生じませんので注意が必要です。

②違反行為が就業規則等に記載された懲戒事由に該当すること

①に関連しますが、懲戒処分を行うためには、従業員によって行われた行為が就業規則等に規定された懲戒事由に該当していることが必要です。

たとえば、該当行為が就業規則ではけん責にあたると規定されているのであれば、出勤停止等それ以外の懲戒処分をすることはできません。

③懲戒処分が相当性を有すること

簡単に言うと、違反行為に対して懲戒処分が重すぎない、バランスがとれているということです。

前述のとおり、懲戒処分には従業員が被る不利益の程度に応じて様々なものがあるため、適切な処分を選ぶ必要があります。

たとえば、遅刻を複数回繰り返した社員に対して懲戒解雇処分は重すぎる、バランスを失しているため無効、ということになります。

企業の皆様についてはここが最も判断に悩むところかもしれません。

この点については、これまでたくさんの裁判例がありますので、ぜひ専門家にご相談ください。

④手続きの遵守

懲戒処分を行う場合には、適切な手続きを踏む必要があります。

懲戒処分の対象となる従業員に対して、どのような行為に対してどのような処分を行うのか、そして、処分の前に従業員の言い分を聞く機会(弁明の機会)を与えることが必要です。

最後に

弁護士吉原

企業が行った懲戒解雇処分が無効と判断されてしまった場合、雇用契約が有効に継続していることになるため、企業は処分以降に働いていない従業員に対して事後的に賃金を支払う義務が生じる等、企業にとってとても大きなリスクとなります

従業員に対して懲戒処分を検討しているがどのように進めていけばよいか分からないとお悩みの方は、ぜひ一度弊所にご相談ください。

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