自社サイトに他人のサイトに掲載された写真や文章を利用したいと思ったことないでしょうか?
私はあります。今このコラムを書いている瞬間も他の弁護士が書いた記事や本などをそのまま利用できたらと考えてしまいます(もちろんしませんが)。
しかし、皆さんもお分かりのとおりそれはできません。
「著作権」があるからです。
著作権とは?
著作権とは、著作物を創作した人(著作権者)に与えられる著作物の独占的な利用権(複製や改変、著作権の譲渡権などを含む)を指します。
著作権は、著作権者にしかありませんので、著作権者が利用等を承諾しなければ、著作権者以外の人は著作物を勝手に利用できません。
もし、著作者の承諾を得ずに著作物を利用した場合、使用の差止、民事上の損害賠償請求、さらには刑事罰(著作権法119条以下)を受ける可能性すらあります。
このように著作権は強い権利です。他人の著作物を自社のサイトで使用する場合などは、原則として著作権者の承諾をえなければなりません。
しかし例外的に、著作権者の承諾を得ずに著作物を利用できる場合について、著作権法はいくつかの規定を定めています。
その1つが「引用」です(著作権法32条1項)。
引用とは?
引用とは、著作権法の定める一定の要件に該当する場合に、著作権者の承諾なしに著作物を利用できる著作権法上の規定(著作権法32条1項)です。
適法な引用といえるためには、以下の5つの要件が必要とされます。
- 引用元が公表された著作物であること
- 引用部分と自己の著作物が明瞭に区別されること
- 自己の著作物と引用部分に主従の関係があること
- 出所明示がされていること
- 引用する側も著作物であること
このうち、2、3、4の要件について解説します。
明瞭区別性
引用においては、自社の著作部分と他人の著作物部分が、カギ括弧その他の表示によって、明確に区別されていることが必要とされます。
主従関係
引用する側の著作物が主で、引用される側の著作物が従の関係にあることをいいます。
「主従関係」が引用の要件になることは、昭和~平成初期の裁判例によって示されました。
しかし、最近の裁判例の傾向としては、「主従関係」という枠組みにとらわれず、「引用としての利用に当たるか否かの判断においては、他人の著作物を利用する側の利用の目的のほか、その方法や態様、利用される著作物の種類や性質、当該著作物の著作権者に及ぼす影響の有無・程度などが総合考慮されなければならない。」(平成22年10月13日知財高裁判決)として、総合考慮で決めるとする裁判例がでてきました。
結局は、引用の方法等を総合的に判断して決めるとしており、実際に引用を行おうとする場合には、裁判例等を参考として境界を見極めることが必要となります。
出所明示
引用された著作物の出所が、利用の態様に応じて合理的と認められる方法により明示されていることが必要です(著作権法48条1項1号)。
たとえば、本の引用であれば、引用元の書籍名や著者を注釈でつける方法が一般的です。
写真の引用についても、その出典や撮影者名を書くことによって出所を明示することが一般的に行われています。
これって引用?
以下に、具体的な事例を挙げて、適法な引用に当たるかどうかを検討します。
事例1
「一般人が趣味で作成し、SNSに公開して誰でも閲覧できるようにした風景写真を、自社サイトの背景画像に利用することは著作権侵害となるか?」
一般人が撮影した風景写真であっても、被写体の選択、場所や日時の選択、構図の決定、シャッタータイミングなどに個性を発揮する要素があるため、著作物と認められます。
また、SNS等に公開され、誰でも閲覧可能な状態になった画像であっても、著作権は著作権者に留保されています。
では、本件は引用にあたるでしょうか?
説明してきたとおり、引用にあたる場合には著作権保護の例外として著作権者の許諾なく著作物を利用できます。
しかし結論として、本件は引用にはあたりません。
本件では、風景写真を自社サイトの背景画像として利用しようとしています。
しかし、背景画像は一般的にサイトを彩ることを目的としており、本件の写真を使う必然性はありません。
また、背景画像として大々的に表示することは、背景画像がサイトの主たる要素になってしまい、主従関係という点でも問題となりえます。
そのため、本件の事例では、撮影者の許諾をとらなければ、著作権侵害となる可能性が高いです。
事例2
「書籍の批評のために、書籍の表紙を写真撮影し批評ブログの内容として掲載したことは著作権侵害となるか?」
まず、書籍の表紙についても、表紙に絵やデザインが掲載されている場合には、書籍の表紙や書影も著作物となり、著作権保護の対象となります。
では、本件のような使用方法は引用になるでしょうか?
本件については、引用と認められる可能性があります。
書籍の表紙は、その書籍の内容と密接な関係を有しています。
表紙を載せることで引用の対象を視覚的に示すことができ、批評として有用であるともいえます。
また、批評や紹介という目的は、他人の著作物を利用する目的として正当なものです。
したがって、出所明示等の要件を満たせば、適法な引用といえます。
ただし、引用となるかの判断は個別の事情により異なりますので、可能な場合には出版社など権利者の許諾を得るのが望ましいでしょう。
おわりに
引用は、文化の発展にとって重要な制度です。
仮に全く引用が許されないとすれば、著作物の批評や紹介のために毎回著作権者の許可をとらなければならず、情報伝達や自由な表現の妨げとなってしまいます。
しかし一方で、著作権者の利益にも配慮する必要があるのは当然です。
裁判所は、著作権と引用のバランスをとろうとして、諸々の要素を総合考慮するとしており、引用にあたるかの判断は簡単ではありません。
もし、他人の著作物の利用にあたって判断に迷う場合には、弊所にご相談いただけますと幸いです。