4月から働き方改革関連法が施行されることもあり、賃金制度等の見直しを検討する企業から多くのご相談をいただいております。
その中に、モチベーション向上等を契機として、成果主義的賃金制度を導入されている企業や、新たに導入を検討している企業からの相談があります。
具体的には、
「残業時間を抑制しながら生産性を向上させるために成果主義的な賃金を一部導入しようと思っているが、どのように導入すればよいか」
「これまでフルコミッション(完全歩合制)の従業員がいたが、会社全体として提供する品質を向上させるために見直しを図りたい」
といったご相談です。
短期的な効果が期待できる成果報酬
「基礎から押さえて今日から使えるマネジメント」の第1回に取り上げた「モチベーション」の記事では、モチベーションを上げるためには「内発的動機づけ」、すなわち自分の内側から起こる意欲を喚起することが重要であるとご説明しました。
成果報酬は自分の外側から誘い出される意欲、すなわち「外発的動機づけ」に分類されますが、「劇薬」としての短期的な効果があるのは事実です。
そこで、今回から4回に分けて「成果主義導入・見直しマニュアル」と題して、成果主義的賃金制度を基礎から押さえます。
一部でも成果主義的な賃金制度等を導入したい企業や、現在導入している企業にとっての見直しに活かしていただければ幸いです。
今後は次の内容で連載を予定しております。
- 「成果主義」と「能力主義」の違い
- 具体的な仕組みの作り方 その1(5月号)
- 具体的な仕組みの作り方 その2(6月号)
- 賃金制度採用時の法的な注意点(7月号)
※1~4はいずれも仮題
100の能力がある人が150の賃金をもらっている?人事管理の目的
人事管理は「人」、「仕事」、「賃金」という3つの要素で成り立っているとされています。
そして人事管理の目的・理念は、3つの要素の均衡を図りながら、成長させていくことです。
たとえば、「100の仕事をしている人が150の賃金をもらっている」というように、「仕事」と「賃金」のバランスが取れていないことはよくあります(皆さんの社内でも思い浮かんでしまう例があるかもしれません。)
「3つの要素の均衡を図る」とは、100の能力のある人が、100の仕事をして、100の賃金をもらう、という状態に近づけることをいいます。
そして、3つの要素の均衡を保ちながら、それぞれを100から120、150に上げていくことが「成長させていく」ということの意味です。
能力主義と成果主義
3つの要素のバランスを図る方法が2つあります。
能力主義と成果主義です。
能力主義
能力主義は「人」に着目します。
人を育成して成長させていくことで、仕事の内容を高め、賃金を上げていく。
人の基準での賃金制度です。
「このくらいの能力まで成長してくれれば、このくらいの賃金を上げるよ」という考え方ですので、能力主義と呼ばれています。
成果主義
これに対し、成果主義では「仕事」を基準とします。
仕事の価値を決め、その上で人を採用します。
仕事基準の考え方です。
「このくらいの仕事をこなしてくれれば、このくらいの報酬を上げるよ」という考え方ですので、成果主義と呼ばれています。
下の図で見ると、3要素を均衡させながらそれぞれを高めていくプロセスが異なることがわかります。
成果主義のメリット・デメリット
不動産業界や保険業界においては、いわゆるフルコミッションなどの完全成果主義的賃金制度を採用している企業が多くあります。
また、景気が悪くなったり、従業員のモチベーションが低下している場面においては、企業は成果主義的賃金を採用する傾向があります。
しかしながら、一般的な日本の企業では成果主義に完全に移行した企業は少なく、能力主義を前提に成果主義を一部取り入れた形で運用しているケースが多いです。
成果主義的賃金を採用することのメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 人件費が変動費化し、無駄がなくなること
- 実力主義が強化されること
- 経営意識が高まること
一方、成果主義的賃金のデメリットとしては、以下のような点が挙げられます。
- 中長期的視野を持ちにくくなること
- 連帯感の喪失(個人プレーの増加)
- 失敗を恐れるようになること
1年ごとに成果で賃金が定まるとすれば、当然、成果の出るような業務だけするようになり、長期的視野に立ったチャレンジングな課題には手を出しにくくなります。
また、採算度外視で契約を取ってきてしまったり、人材育成など成果として評価されにくい重要な業務が軽視されがちになるという問題もあります。
このように、それぞれのメリットとデメリットはありますが、人材育成、組織論、雇用・生活安定論などの観点からは能力主義が、人件費のコスト論、人材活用論などの観点からは成果主義が採用されることになります。
現実的には「人材育成」と「人材活用」のバランスを取りながら賃金制度設計をしていくことが必要になりますので、「能力主義に基づいた成果主義」の導入を目指すことになります。
次回は、能力主義に基づいた成果主義を採用する場合の賃金体系を具体的にどのように設定すればいいのかご説明いたします。