はじめに
多数の人間が在籍する職場では、人間関係は避けては通れない問題であり、人間関係のトラブルは、「ハラスメント」の形で問題化することもあります。
今回は、近年特に問題視されている「パワーハラスメント」(パワハラ)についての基本的な知識の説明と、従業員や会社(パワハラの相談を受けた側)としてどのような点に気をつけなければいけないのかを解説します。
近年は、ハラスメントに対する意識も高まってきており、被害者が声を上げることも多くなっています。意図せずハラスメント加害者になってしまったり、ハラスメント相談を受けたときに対応を間違ってしまったりしないよう注意しましょう。
パワーハラスメントとは
厚生労働省の定義によると、パワーハラスメント(パワハラ)とは「職場における優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、労働者の就労環境が害されるもの」とされています。
「職場」とは、労働者が業務を遂行する場所のことですが、懇親の場であっても、それが職務の延長と考えられるもの(たとえば参加が強制されているとか、職場の人間同士で仕事の話をするとか)は、職場に該当します。
「優越的な関係を背景とした言動」とは、抵抗や拒否することができない蓋然性が高い関係性を意味しますので、必ずしも「上司→部下」に限定されるわけではありません。
同僚同士もしくは部下→上司の場合であっても、両者の関係性(年齢・性別・業務経験(前職での経験の有無等)・資格の有無)を考慮して、上記のような関係性に該当すれば、同僚もしくは部下がパワハラ加害者になることもあります。
「就労環境が害される」とは、社会一般の労働者がその言動を受けたときにどう感じるか、を基準に判断されます。
つまり、実際の被害者がパワハラと認識していなくても、客観的にはパワハラに該当する可能性があります。(当事者が訴え出ないことで問題化しない、という場合はありますが。)
なお、厚生労働省は、パワハラを6つの類型に分類しています。
- 「身体的な攻撃」(叩く、殴る、蹴る、体罰を与える、等)
- 「精神的な攻撃」(侮辱、暴言、他者の前での見せしめ的な叱責)
- 「人間関係からの切り離し」(物理的に就業場所を隔離、仲間はずれ、無視、等)
- 「過大な要求」(達成不可能なノルマを課す、ミスに対して罰金・罰則を課す)
- 「過小な要求」(業務上の合理性無く能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じる、等)
- 「個の侵害」(プライベートを詮索する、休暇の理由を過度に聞く、個人ラインを交換させる、アウティング、等)
これらは、例示列挙ですので、パワハラがこれらの例示のみに限定されるわけではありません。
あくまで、「定義」に当てはまるかどうかによってパワハラ該当性を判断します。
パワハラ加害者にならないために
「精神的な攻撃」は、業務指導との境界が曖昧になりがちです。
相手のためを思って改善してほしいと思って指導しているつもりが、相手からすると精神的苦痛を感じておりパワハラに該当してしまう、というケースも少なくありません。
抽象的・感情的な指導は人格非難(=パワハラ)になりやすいです。
指導の際は、できるだけ具体的な事実・指導理由を指摘する事が重要です。(具体性がある方が指導された側も受け入れやすく、改善策を検討しやすいです。)
また、ミスの原因が相手本人の素因によるものなのかを、相手の立場に立って、その意見を聞いたうえで判断する必要があります。
例えば、業務過多が原因であれば業務量を調整したり、適切な指示を受けていなかったのであれば指示の方法を見直したりなど、具体的な解決策に結びつく指導・検討を行いましょう。
「過大な要求」のみならず「過小な要求」もパワハラに該当することは注意です。
いわゆる「窓際族」に配置することは問題ですし、有資格者に資格がなくてもできる業務ばかり行わせる、なども「過小な要求」に該当する可能性がありますので、注意が必要です。
また、「過大な要求」となるか否かに際しては、新人とベテランの業務処理能力に差があることを意識しましょう。
特に新人への業務分配においては、経験の少なさを加味したうえで業務過多にならないような配慮が必要になります。(当然、業務処理能力や成果に応じて、従業員の給与等の待遇に差異を設けることは問題ありません。)
パワハラ相談を受けた側の対応
会社には、従業員がパワハラを受けた場合に相談できる窓口等を整備しておく義務があります(2022年4月から義務化されています。※努力義務ではなく義務。)
今回は、体制整備の話は割愛しますが、整備していないと法律違反となることもありますので、重要な問題であることは認識しておきましょう。
さて、パワハラ相談を受けた側としては、まずは、早急な事実確認(聞き取り等)と証拠収集を行ってください。
対応が遅れたり対応しなかったりすると、事態は悪化し、会社はパワハラ被害者から安全配慮義務違反等を理由とした損害賠償請求をされる可能性があります。
放置が一番ダメです。とにかく、早急な対応を心がけましょう。
事実確認の際には、どちらか片方の意見に肩入れしないよう注意しましょう。
「目撃者や関係者からの聴取」→「被害者加害者本人からの聴取」、の順に行うのが望ましいです。
また、証言を裏付ける証拠があるかどうかは必ず検討し、当事者等に証拠の提出を促しましょう。
ただし、ハラスメントは必ずしも公に発生するものではなく、また、当事者の記憶や認識に齟齬が生じることもありますので、証拠収集や事実関係には限界があることも意識しましょう。
例えば、被害者の記憶があやふやだったり、加害者が無意識的に記憶違いをしてしまったりすることもあるでしょう。
しかし、だからといってパワハラは無かった、と即断することはできません。
パワハラ相談を受けた側としては、あくまで中立な立場で双方や関係者からの話を聞き、証拠からパワハラの事実が認定できるかを慎重かつ迅速に判断する必要があります。
パワハラ該当性の判断においては、専門的な知識や経験も必要となりますので、弁護士等の専門家に相談するのもよいでしょう。
まとめ
近年ではハラスメントに対する社会の目も厳しくなり、会社による防止措置も義務化されました。
一人ひとりの従業員が、ハラスメントへの理解を深め、加害者にならないよう注意が必要であるとともに、ハラスメントの報告を受けた管理職や会社としても、適切な対応を行って二次被害や被害の拡大を防ぐ必要があります。
弁護士等の専門家にも意見を聞きつつ、一度、社内のハラスメント体制の見直しや、従業員のハラスメント意識向上の研修等を行うことをお勧めします。