テナントの貸し借りの際に注意すべき建物賃貸借契約書のポイントとは?
「オフィス用の建物を借りたい。」
「自社が所有する建物を貸して賃料収入を得たい。」
企業が事業を行ううえで、賃貸借契約はほぼ避けては通れないものです。
賃貸借契約を結ぶ際は、通常、賃貸借契約書が作成されます。
最近ではインターネット上で賃貸借契約書の雛形をダウンロードできるようにもなりましたが、インターネットで取得できる雛形は、あくまでも雛形に過ぎません。
賃貸借契約を締結する上で最低限のことしか書いていなかったり、片方の当事者にだけ一方的に有利な内容となっていることもあるため、いざトラブルが発生した場合に思いもよらなかった損害を被るおそれがあります。
この記事では、会社が建物賃貸借契約書を作成するときに注意するべきポイントについて解説いたします。
建物賃貸借契約とは
建物賃貸借契約は、貸主が借主に対して建物を使用させることを約束し、他方で賃借人が賃貸人に対して賃料を支払うことを約束することで成立します。
双方の当事者が合意をした内容を書面にしたものが建物賃貸借契約書です。
建物賃貸借契約書の記載事項
建物賃貸借契約には、通常、以下のような事項が記載されます。
- 当事者
- 物件の表示
- 使用目的
- 契約期間と契約の更新
- 賃料
- 賃料の改訂
- 保証金
- 遅延損害金
- 解約
- 禁止行為
- 原状回復義務、損害賠償義務
以下、特に問題になりやすい項目について説明します。
当事者
まず、契約の当事者、すなわち貸主と借主の特定は必須です。
仲介業者との間で契約を進めている場合などには、契約の相手方と直接やりとりをせずに契約に至る場合も少なくありません。
そこで、契約の相手方が個人なのか法人なのか、自社が行っている事業に関連して利害関係はないか、契約を更新する場合には前の当事者からの承継が生じていないかなど、入念にチェックしましょう。
物件の特定
賃貸借契約書では、賃貸借契約の対象となる物件を特定する必要があります。
物件の特定は、通常、不動産登記簿謄本に記載されている以下の事項を記載して行います。
- 所在
- 地番
- 家屋番号
- 種類
- 構造
- 床面積
当然のことですが、どの物件を賃貸するかは建物賃貸借契約における重要事項です。
不動産登記簿謄本を参照しながら、記載漏れや記載ミスがないかチェックしましょう。
「構造」は、鉄筋コンクリート(RC)、鉄骨鉄筋コンクリート(SRC)、軽量鉄骨など建物の骨組みの構造を示すもので、耐震性や防音性にかかわります。
交渉時の資料や説明と齟齬がないかどうかよく確認しておきましょう。
使用目的
会社が建物賃貸借契約を締結する場合、通常、賃貸借契約書において物件の使用目的が定められます。
「事務所」「店舗」「倉庫」「事務所兼ショールーム」「住宅兼事務所」など借主の使用目的に応じた用途が規定されます。
契約の当事者は、物件を何のために利用するつもりなのか契約前によく確認し、契約書に反映させるようにしましょう。
使用目的と異なる目的で借主が使用すれば契約違反となり、借主は契約を解除されて物件を使用できなくなったり、損害賠償請求をされることがあります。
契約期間と契約の更新
法律の規定は借主に有利
建物賃貸者契約には、通常、契約期間が定められます。
事務所の場合の契約期間は2年のことが多いですが、3年や5年、長いときには10年というケースもあります。
契約期間が満了すると、通常は、当事者双方が契約更新の合意をして更新手続が行われます(合意更新)。
合意更新をせずに期間が満了したからといって、直ちに賃貸借が終了するわけではありません。
借地借家法では、契約期間が満了する6ヶ月前までに、期間満了後は契約を更新しない、または、条件を変更しない限りは契約を更新しないという内容の通知をしなかった場合には、契約が更新されると定められています(法定更新)。
ただし、更新しないという通知さえすれば賃貸借契約が終了するというものではなく、賃貸借契約を終了させることを正当化できるだけの事情(正当事由)が必要とされます。
このように、借地借家法では、賃貸借契約が存続しやすいような内容の規定となり、借主に有利な作りになっていますので、貸主側は注意が必要です。
更新拒絶通知
貸主がどのような方法で更新しないという内容の通知をしなければならないかということについては、法律に規定されていません。
とはいえ、「通知した」「していない」でトラブルになることを避けるため、「書面にて通知する」とするなど、通知の方法を指定しておくとよいでしょう。
賃料・共益費・遅延損害金など
建物賃貸借契約において、もっとも争いの元になりやすいのがお金を巡る問題です。
賃料はもちろん、共益費、振込手数料、光熱費、賃料を滞納したときの遅延損害金、さらにはこれらの費用の支払い期日や支払い方法などについて明確に定められており、自社にとって不利益な内容になっていないかどうかチェックしましょう。
テナントの賃料は高額になることが多いため、月の半ばに入退去する場合には日割り計算ができるのかどうかによって、借主の負担額が大きく異なることがあります。
賃料の増額・減額
契約期間中に生じた経済事情の変動などによって、建物賃貸借契約書で定めた賃料の額が相場より高くなったり、安くなったりすることがあります。
借地借家法では、そのような場合に当事者は賃料の増額や減額を求めることができるとされており、これを巡って調停や裁判に発展することもあります。
借地借家法には、「一定の期間建物の借賃を増額しない旨の特約がある場合には、その定めに従う」と規定されています。
ポイントは「増減しない旨の特約」ではなく「増額しない旨の特約」とされている点です。
すなわち、建物賃貸借契約書に「2年間は賃料を増額しないものとする」という特約は有効となりますが、「減額しないものとする」という特約は無効になると考えられています。
借地借家法は借主を保護するための法律ですので、賃料の増減についても、このように借主に有利になっているのです。
借主としては、一定期間は賃料を増額しないという内容の特約を盛り込むことで、経済事情の変動が起こったとしても貸主から賃料の増額を求められる心配がなくなります。
中途解約
建物賃貸借契約の契約期間中に、借主、あるいは貸主から契約を解約したい場合があります。
このような場合は、借主からの解約の場合と貸主からの解約の場合とで扱いが異なります。
借主からの解約の場合
通常、建物賃貸借契約を締結するときには契約書のなかで借主による解除権について定められます。
住居の賃貸の場合には1か月~2か月前までに解約の申し入れをすると定められることが多いですが、事務所の場合には3か月~6か月前に申し入れをしなければならないとされることもあります。
建物賃貸借契約を締結する前に契約書の内容をよく確認し、解約の申し入れをしなければならない時期が早すぎる場合には、貸主と交渉を行うことも検討するべきでしょう。
また、建物賃貸借契約書で定められた期間の途中で解約をする場合には、借主はその分の違約金を支払わなければならないとされている契約が多いです。
裁判例によると、違約金の定めを置くこと自体は認められますが、違約金の金額が高額すぎるなど、賃借人に著しい不利益を与えるような場合には、公序良俗に反して無効とされる可能性がありますので、貸主側は注意が必要です。
貸主からの解約の場合
借地借家法では、貸主側から建物賃貸借契約を終了させることができるのは以下の場合に限るとされています。
【期間の定めのある建物賃貸借契約の場合】
- 契約期間の満了日の1年前から6ヶ月前までに契約を更新しないという内容の通知を出すこと
- 正当事由があること
【期間の定めのない建物賃貸借契約の場合】
- 解約申し入れを行うこと
- 解約申し入れから6ヶ月が経過すること
- 正当事由があること
これらの規定に反する特約を建物賃貸借契約書に定めたとしても、その規定は無効となります。
正当事由として認められるのは、建物の建て替えや修繕を行わなければいけない場合や、借主の無断転貸などにより貸主と借主の間の信頼関係が破壊された場合、貸主が借主に対して代わりの建物や立退き料を提供した場合などです。
最後に
建物賃貸借契約書で確認すべきこと
このように、建物賃貸借契約は民法のみならず借地借家法などの法律による規制の対象となります。
法律の定めには、当事者間の合意があっても法律が優先される「強行規定」と、当事者間の合意が優先される「任意規定」があります。
建物賃貸借契約を締結するときには、自社に不利益な規定があるかどうかだけでなく、法律の強行規定に反していないか、よくチェックしておく必要があります。
建物賃貸借契約書の作成代行やリーガルチェックは弁護士にご相談ください
建物は、借主にとっては事業を遂行するうえでの基礎となるものであり、貸主にとっては大きな収益源となりうるものです。
トラブルなく円満に物件を貸し借りできればそれに勝ることはありませんが、賃料や立退きなど建物賃貸借に関するトラブルは多く発生しています。
建物賃貸借契約書を締結する段階で将来起こりうる様々な事態を想定していれば、後々の大きなトラブルを回避できる可能性が高まります。
建物賃貸借契約書に記載するべき内容は、建物の特徴や会社の事情によって千差万別です。
賃貸借契約書を作成する場合や、相手方から提示された建物賃貸借契約書をチェックするときには、契約書の専門家である弁護士にご相談されることをお勧めします。
たくみ法律事務所では、企業からのご相談は相談料無料で対応しておりますので、お気軽にご相談にお越しください。