強行規定と任意規定の違い
法律の規定には「強行規定」と「任意規定」の2種類があるのをご存知でしょうか?
この2つを区別しておくことは、契約や労務の実務において非常に重要です。
今回は、会社の経営者や法務担当者、人事・労務の担当者が知っておくべき強行規定と任意規定の違いについて解説いたします。
強行規定と任意規定
「強行規定」とは、公の秩序に関するルールで、当事者の意思により変更することが許されていないものをいいます。
他方、当事者の意思によって変更することが認められているルールもあります。
これを「任意規定」といいます。
強行規定 | 当事者の意思によって変更することが許されていない規定 |
任意規定 | 当事者の意思によって変更することが認められている規定 |
契約自由の原則
民法91条には次のような規定があります。
この規定は「契約の内容は当事者が自由に定めることができる」という「契約自由の原則」について定めた条文です。
要するに「当事者同士が同意しているならば、法律でとやかく制限する必要はない」という考え方です。
強行規定
他方で、労働者や消費者などの保護を目的とした法律の規定は強行規定であることが一般的です。
労働法は「弱者である労働者を保護する」という公の秩序を維持するための法律ですので、「会社と従業員が同意さえすれば何をしても許される」という理屈は通じません。
強行規定に反する契約や条項は無効となります。
強行規定の例
労働基準法39条には、使用者は、雇入れの日から起算して6か月間継続勤務し全労働日の8割以上出勤した労働者に対しては有給休暇を与えなければならないと規定されています。
たとえ試用期間でも採用を行った日が「雇入れの日」となりますので、この規定に反して雇用契約書で「試用期間後、本採用をした日から起算して6か月経過した時に有給休暇を付与する」といった合意をしたとしても無効となり、法律のルールが優先されることになります。
また、利息制限法には「制限利率を超過した利息の契約をした場合、制限超過部分は無効になる」という規定があります。
これは強行規定ですので、制限利率を超える利息を設定する消費貸借契約は、たとえ消費者が同意していたとしても超過部分が無効となります。
任意規定
契約に関する規定は任意規定であることが多いです。
これはすでに説明した「契約自由の原則」が適用されるためです。
任意規定の例
民法633条には、請負契約の報酬は仕事の目的物の引渡しと同時に支払わなければならないと規定されています。
しかし、製造や建築の取引においては前払いか後払い、あるいは分割払いにより支払う旨の合意が交わされるのが一般的です。
契約書などにより当事者同士の合意がなされなかったときに限り、民法の規定が適用されます。
また、商法526条には、商人同士の売買において買主が目的物に瑕疵(不具合等)があることを発見した場合は損害賠償請求等ができると規定されています。
これは任意規定です。
したがって、契約書の中に「商品にいかなる瑕疵があっても売主は責任を負わない」といった条項がある場合は法律のルールより当事者の合意が優先されることになります。
なお、瑕疵担保については製造物責任法や消費者契約法上の特別法について別途検討が必要です。
強行規定?それとも任意規定?
法律のルールが強行規定なのか任意規定なのかはどうやって判断すればよいのでしょうか。
法律の文言上、強行規定あるいは任意規定であることが明らかにされていることもあります。
たとえば民法404条は「利息を生ずべき債権について別段の意思表示がないときは、その利率は、年5分とする。」とされており、任意規定であることが明示されています。
しかし多くの場合、強行規定か任意規定かは法令の趣旨から判断する必要があります。
すでに説明したとおり、契約に関するルールは任意規定であることが多いですが、労働者や消費者の保護を目的としたルールは強行規定であることが大半です。
また、契約の有効期間に関する部分が無効とされるケースもあります。
たとえば秘密保持契約(NDA)においては有効期間を永遠とするような条項は、たとえ契約締結時に当事者が同意していたとしても無効とされる可能性が高いです。