中小企業が事業承継を成功させるポイント
事業承継の必要性
社会の高齢化の進行に伴い、中小企業の経営者の平均年齢も年々上昇しています。
『2017年版中小企業白書』によると、過去20年間で中小企業の経営者の年齢のボリュームゾーンは47歳から66歳へと移行しました。
さらに、休廃業や解散をした企業の数は過去最多を記録し、そのうち多くの企業では経営者が60代から80代の高齢者でした。
会社が事業を永続的に継続していくためには、どこかの段階で事業承継を行って経営者を交代する必要があります。
事業承継ができなければ、いつかは廃業するしかありません。
事業承継の2つの方法
事業承継の方法には、大きく分けて、
- 親族内事業承継
- 従業員への事業承継
の2つがあります。
企業の実態に合った適切な事業承継を行うためには、それぞれの方法について正しく理解しておく必要があります。
この記事では、親族に事業譲渡する方法と従業員に事業譲渡する方法について、それぞれのメリットとデメリットを解説します。
事業承継の方法① 親族内事業承継
親族内事業承継とは、息子や娘など現在の経営者の親族に会社の経営権を受け継がせる方法です。
親族内事業承継は中小企業の事業承継でよく用いられる方法です。
具体的には、遺言書を作成して死亡したときに後継者に株式・持分・事業用の財産などを相続させることで経営権を譲渡する方法や、生前に後継者に対して株式・持分・事業用の財産などを贈与したり、譲渡したりする方法があります。
親族内事業承継のメリット
会社関係者の理解を得やすく、取引関係に影響が出にくい
親族内事業承継のメリットは、従業員や取引先との間で、事業承継前と変わらない関係を保ちやすいことです。
事業承継を行うと、場合によっては、従業員や取引先の信頼関係に影響が出てしまうことがあります。
以前の経営者の人柄や個性が会社に対する信頼に繋がっているような場合はなおさらです。
経営者の親族などが後継者となる場合は、従業員の納得も得られやすく、取引先関係の会社経営に対する不信が生じる可能性も低いでしょう。
このように、親族内事業承継には、事業承継後の会社経営を円滑に進めやすいというメリットがあります。
早い段階から事業承継に向けた準備ができる
親族に事業承継する場合には、早い段階から会社で働いてもらい、会社の実情や経営状況を把握させるなど、円滑に事業承継を行うために早くから準備をすることができます。
また、会社の経営状態や現在の経営者の健康状態などに応じて、柔軟に事業承継のタイミングを図ることも可能になります。
安心して事業承継をすることができる
長年経営してきた会社を後継者に譲り渡すときには、きちんと会社経営を遂行してくれるのか、という不安が付きまといます。
血縁関係があり、人柄や能力を熟知している親族を後継者とすることで、経営者は安心して今後の会社経営を受け継がせることができます。
親族内事業承継のデメリット
親族内に後継者がいるとは限らない
親族内に後継者となる人がいない場合や、経営者としての資質を持つ人がいない場合には、親族内事業承継を行うことはできません。
60代の後継者の家庭は子どもが2人程度のことが多く、遠方に暮らしているケースも少なくありません。
もし後継者になってもらいたいような親族がいたとしても、候補者の能力や会社の将来性によっては、後継者となることを拒否される可能性もあります。
準備に時間がかかる
親族に事業承継をさせる場合、円滑に事業承継を行うためには、早い段階から会社で働かせ、事業承継への準備を行わなければいけません。
特に、会社で働いていない親族を後継者にする場合には、会社の実情や経営のノウハウを一から教育する必要があります。
時間をかけて準備ができるという点ではメリットともいえますが、その分、事業承継を完了するまでに時間がかかることになります。
相続人が複数いる場合、紛争が生じることがある
相続による事業承継を行った場合で、会社の後継者となる親族以外にも相続人がいる場合には、遺産分割について相続人同士で紛争が生じる可能性があります。
具体的には、ほかの相続人から「遺留分減殺請求」をされ、遺言書により会社の株式を取得した後継者に対して最低限の相続分を主張されることが考えられます。
このようなトラブルにより、円滑に事業承継ができなかったり、会社経営に支障をきたすおそれがあります。
個人保証の変更ができない可能性がある
会社経営のために銀行などの金融機関から融資を受けている場合には、事業承継をしても、後継者の個人保証に移行できない可能性があります。
個人保証は、個人の経歴や経営手腕などを考慮して行われますので、金融機関が現在の経営者を信用して融資している場合には、まだ経営手腕が明らかでない後継者に個人保証を変更してくれないことがあります。
事業承継の方法② 従業員への事業承継
現在会社で働いている役員など、従業員に会社の経営権を受け継がせる方法も考えられます。
会社設立以降の貢献度が高い従業員や、経営者の資質を有する従業員を後継者にする方法です。
従業員に事業承継をするためには、遺言書を作成して会社の株式・持分・事業用の財産などを相続させたり、生前にこれらを譲渡することによって、会社の支配権を獲得することができるだけの株式を保有させることになります。
従業員への事業承継のメリット
親族内に後継者がいないときでも、広く後継者を選ぶことができる
親族のなかに後継者としてふさわしい人がいない場合でも、会社内部から能力や意欲が高い従業員を後継者として選び、事業承継させることができるため、後継者選びの自由度が高いのが大きなメリットです。
会社経営の一貫性を維持しやすい
長年会社で働いてきた従業員であれば、すでに会社の事業や実態、経営状態を把握しているため、事業承継後も一貫した会社経営を行うことが期待できます。また、後継者が既存の取引先やほかの従業員からの信頼関係を有している場合には、事業承継によって取引が停止したり従業員の士気が下がるリスクが少なく済みます。
従業員への事業承継のデメリット
従業員個人に資力が必要
後継者が株式・持分・事業用の財産などを売買により取得して事業承継を行うためには、後継者となる従業員に資力がなければいけません。
会社の支配権を譲渡するための対価は高額となることが多いため、後継者となる従業員がどのようにしてその対価を用意するかが問題となります。
後継者となる従業員が資金を用意できない場合は、現在の経営者が譲渡の対価を減額しなければいけない場合もあります。
親族や相続人の反発が生じる可能性がある
遺言書により後継者に株式・持分・事業用の財産などが贈与されると、法定相続人の遺産分割の対象となる財産が減少してしまうため、反発が生じる可能性があります。
また、法定相続人から遺留分減殺請求をされることにより、事業承継に必要となる株式などを取得できなくなるおそれもあります。
他の従業員の反発が生じる可能性がある
特定の従業員に経営者としての地位を譲り渡すことにより、長年会社に貢献してきたほかの従業員から反発が生じる可能性があります。
個人保証の変更ができない可能性がある
会社経営のために銀行などからお金を融資してもらっているときは、親族への事業承継の場合と同様の理由で、後継者の個人保証に移行できない可能性があります。 個人保証を変更できない場合には、元の経営者は、会社経営から離れたにもかかわらず会社の経営状況に対するリスクを負い続けなければいけないことになります。弁護士にご相談ください
いずれの方法をとる場合であっても、事業承継は早めに準備をすることが何よりも重要です。
たくみ法律事務所の弁護士にご依頼いただくことで、適切なスキームの選定から、実際に事業承継を実施するための手続、さらには事業承継後の法的支援に至るまで、幅広くサポートすることができます。
事業承継でお悩みの企業の経営者様は、まずは一度弁護士にご相談ください。