時効

2019年10月20日、日本経済新聞の紙面において、厚生労働省が賃金の消滅時効の期間を3年に延長する検討に入ったという報道がなされました。

これが実現すれば、未払い残業代の問題を抱えた会社には非常に大きな影響が生じます。

この記事では、時効期間の延長に関する議論の背景や、会社がとるべき対応について解説いたします。

なぜ未払い残業代の消滅時効が3年になるの?

2020年の民法改正

賃金の時効が労働基準法で2年と定められているのは、労働者の賃金請求権の時効を1年と定めている民法の短期消滅時効の規定を、労働者保護の観点から修正するための特則です。

ところが、2020年4月1日に施行予定の民法改正により、消滅時効の期間は、債権者が権利を行使できることを知った時から5年、権利を行使することができる時から10年のいずれか早い時までとされ、短期消滅事項の規定は削除されることになりました。

これにより、労基法で定める期間の方が民法より短くなる「ねじれ」の事態が生じることになります。

会社への影響

労基法が改正されて賃金の消滅時効が延長されると、会社の労務管理上非常に大きな影響があります

これまでは、労働者側から「未払い分の残業代を全額支払え」と請求がされたとき、「賃金は2年で時効にかかるから、過去2年分しか支払わない」という反論が可能でした。

ところが時効が3年になると支払い義務が発生する期間は1.5倍に拡大し、これまで以上に多額の支払い義務が生じる可能性が高まります

今後5年に延長される可能性も

さらに深刻なことに、今後、賃金の消滅時効は5年にまで延長される可能性があります

というのは、債権の時効を5年に延長する民法改正の趣旨からすれば、本来、未払い賃金の時効も5年とするべきだからです。

事実、労働者の立場からすれば「そもそも残業代をきちんと支払わない会社が悪い」というのもっともな批判です。

しかし、2年から5年へ延長されれば記録の管理やシステムの改修も含めた企業の負担は甚大となることが予想されます。

そこで、将来は5年への延長を視野に入れつつ、企業側の負担も考慮して経過措置としてまずは3年にするという議論がされていると考えられます。

未払い残業代を請求されたら

まず内容証明郵便が届くのが一般的

未払い残業代を労働者から請求されたら、会社はどのように対応すべきなのでしょうか。

未払い残業代を請求される場合、まず、労働者側から内容証明郵便が会社に届くケースが多いです。

代理人弁護士の名義で送られてくるケースもあれば、本人の名前で請求してくることもあります。

また、請求金額や支払い期限を指定してくるケースもあれば、まずは資料の提出を求めてくるケースもあります。

請求を放置していていると労働審判や訴訟を申し立てられる可能性が高いので、この時点で資料を集め、反論を準備しておく必要があります。

弁護士にご相談ください

労働者が内容証明郵便で請求金額や支払い期限を指定してきたからといって、それ自体は法的な効力があるものではありませんので、直ちに請求額全額を支払う必要はありません

労働基準法の改正前であれば過去2年分以前の請求は時効で請求権が消滅しますので、それより前の分を支払う義務はありません。

また、相手方の計算の基礎となっている労働時間や時間あたりの給与についても法律的な反論を検討する必要があります。

もしあなたの会社が、万が一労働者から未払い残業代の請求を受けたら、なるべく早く弁護士に相談をして適切な対応をとるべきです。

今後とるべき対策

では、今後のトラブルを予防するために会社はどのような対策をとっておくべきなのでしょうか。

雇用契約書と就業規則の見直し

まず、雇用契約書や就業規則の見直しを行いましょう。

会社としては、定額の手当として残業代(固定残業代)を支払っていたりすることもあるでしょう。

しかし、そのような固定残業代の支払いが法的に有効な残業代として認められるには、いくつかの要件をクリアしなければなりません。

もし、固定残業代を支払っていたにもかかわらず、法的に有効となるための要件をクリアしていなかった場合は、固定残業代は残業代の支払いとして認められないだけでなく、残業代の算定の基礎となる基本給に組み込まれてしまうという思わぬ「不意打ち」を受けることになります。

特に実際の残業の有無にかかわらず毎月決まった金額を支払う固定残業代制は、適法とされるためにいくつかの要件があります。

これらの要件を満たしていないと、固定残業代制が違法とされ、固定残業代分を基本給と計算して未払い残業代が計算されるという、思わぬ「不意打ち」を受ける可能性もあります。

勤怠管理の見直し

勤怠管理の方法を見直し、適切な手段の導入を検討することも重要です。

残業代請求が行われたとき、まず問題となるのは実際に勤務した時間の証拠です。

会社としては、残業を禁止していたのに労働者が勝手に残業していたのだと主張したいこともあるでしょう。

しかし、会社が労働時間を適切に把握していなかった場合には、労働者側の主張に従って労働時間が認定されてしまうおそれがあります。

顧問契約がお勧めです

弁護士小林

「労務管理体制の整備と言われても何から手を付けてよいかわからない」という経営者様は多いと思います。

サービス残業や不当な長時間労働を生まない労務管理体制を整え、万が一、未払い残業代を請求されたときに適切な初動をとるためには、日頃から気軽に相談できる専門家がいることが重要です。

たくみ法律事務所と顧問契約を結ぶことにより、お電話やチャットで気軽に弁護士とご相談いただくことが可能です。

最後に

雇用契約書

サービス残業の禁止や長時間労働抑制に対する意識の高まりから、近年、残業代の未払いを労働基準監督署から是正指導される件数は増加傾向にあります。

残業代の未払いに対する世間の目は厳しくなる一方です。

繰り返しになりますが、近年、サービス残業を減らして長時間労働を抑制することが企業の責任として求められています。

適切な労働環境を確立しつつ業績を維持し、会社を健全に成長させていくためには、各企業における業務の効率化が不可欠です。

逆にいえば、生産性の向上を実現できない会社は今後淘汰されていく可能性があるということになります。

健全で永続的な企業経営のため、専門家のアドバイスの下で早急に労務管理体制の整備に取り組みましょう。

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