厚生労働省は、2019年9月21日、職場でのパワーハラスメント(パワハラ)を防止するために企業に求める指針の素案を公表しました。
事業主にパワハラ対策が義務付ける、いわゆる「パワハラ防止法」にかかわるものです。
パワハラと業務上必要な指導の線引き
職場におけるパワーハラスメントとは、以下の3つの要素をすべて満たすものとされています。
- 優越的な関係を背景とした
- 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動により
- 労働者の就業環境を害すること
今回の指針案は、「1」の「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」について、パワハラに当たる事例と当たらない事例を具体的に示すことによってパワハラとそうでない言動の線引きをしようとするものです。
たとえば「精神的な攻撃」という類型では、
「人格を否定するような発言をすること」
「業務の遂行に関する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うこと」
「他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責を繰り返し行うこと」
はパワハラに当たるが、
「遅刻や服装の乱れなど社会的ルールやマナーを欠いた言動・行動が見られ、再三注意してもそれが改善されない労働者に対して強く注意をすること」
はパワハラに当たらないとされています。
今後の動向に注意を
今回の指針案は、具体的な事例を挙げながらパワハラと業務上適正な指示・指導の線引きを試みたという点で意義があるものです。
しかし、あくまで指針の「素案」に過ぎず、現段階では実効力を持つものではありません。
また今回の指針案に対しては、日本労働弁護団が「パワハラの範囲を矮小化し、労働者の救済を阻害するもの」であるとして抜本的な修正を求める緊急声明を発表するなど、批判も多く出されています。
指針は労働局による指導の具体的な基準となるものであり、事業者にとっても重要な意味を持ちます。
指針の内容は今回の案をベースに労働政策審議会で引き続き議論される見込みです。