待機時間は労働時間になる?
医師・看護師などの医療機関やIT系のシステム保守・運用などの業務において、従業員を自宅などで待機させ、緊急の要請があったときにいつでも対応できるように指示することがあります。
この場合の待機時間は労働時間に該当するのでしょうか。
労働時間とは
労働時間とは、使用者の明示または黙示の指示によって、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいいます。
したがって、たとえ実際に業務を行っていなくても、自由利用が保障されていない休憩時間や運送業のドライバーの手待時間などは原則として労働時間に該当します。
労基法41条の適用除外
例外として、労働基準法の41条で、次の者については労働時間、休憩および休日に関する規定は適用されないとされています。
- 農業または水産・養蚕・畜産業に従事する者(林業は該当しません)
- 管理監督者
- 監視または断続的労働に従事する者で、使用者が行政官庁(労働基準監督署)の許可を受けたもの
これらを総称して「労基法41条該当者のの適用場外」ということもあります。
3に該当する可能性がある者の例として、守衛、門番、寄宿舎の管理人、宿直または日直の勤務で断続的な業務を行う者が挙げられます。
このような業務では、待機中の仮眠が許されているなど、常態として身体の疲労や精神的緊張が少ないことがあるため、労働基準法の労働時間の規制のうち一部が適用されないものとされているのです。
最高裁判例
もっとも、自宅などに待機させる場合に必ず適用除外の対象となるわけではありません。
ビルの管理人に住み込みで勤務させているようなケースで労基法41条の適用が否定されると、1日24時間労働していたと判断され、多額の賃金を支払うよう命じられる可能性もあります。
労基法41条の適用が否定された著名な最高裁判例として、「大星ビル管理事件」(最一小判平成14年2月28日民集56巻2号361頁)があります。
事案の概要
問題となった勤務体制は24時間勤務と呼ばれ、始業時間が午前9時、9時30分又は10時、就業時刻が翌朝の同時刻までとされ、その間、休憩時間が合計1時間から2時間、仮眠時間が連続して7時間から9時間与えられていました。
1名の警備員がビルの仮眠室に泊り込み、原則としてビルからの外出が禁止されて、電話の接受、警報への対応等を行い、そのような事態が生じない限りは睡眠をとってよいこととされていました。
また、仮眠時間中であっても、必要に応じて、突発作業等に従事することが予定され、警報を聞き漏らすことは許されず、警報が鳴れば何かしらの対応をしなければならないものでした。
裁判所の判断
最高裁は、仮眠時間中も仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられているのであり、実作業への従事の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しないことから、仮眠時間の全体として労働からの解放が保障されているとはいえず、労務提供が義務付けられているとして、労働時間に当たると判断しました。
41条に該当する場合
労基法41条に該当する者に対しては、労働時間、休憩および休日に関する規定が適用されませんが、いくつか注意が必要な点があります。
まず、「監視または断続的労働に従事する者」に該当する場合であっても、適用除外の対象となるためには労働基準監督署長の許可が必要です。
また、労基法41条の適用除外に該当する場合でも深夜業の規定と年次有給休暇の規定は適用されます。
したがって、深夜業をした場合には一般の労働者と同じく割増賃金を支払わなければなりませんし、年次有給休暇も一般の労働者と同じように付与する必要があります。