従業員を解雇する前に弁護士にご相談を―安易な解雇は危険です
社内に問題のある従業員がいるときには、「いっそのこと解雇してしまいたい」と思われるかもしれません。
しかし、一方的な解雇は紛争に発展しやすいということを肝に銘じておかなければいけません。
安易に解雇を行ってしまうと、「不当解雇」であるとして、従業員から労働審判や労働訴訟を起こされてしまい、多額の慰謝料や未払いの給与の支払いを余儀なくされてしまうケースがあります。
このページでは、解雇がどのような場合が適法とされ、どのような場合に違法となるのか、具体例に基づいてご説明いたします。
入院
従業員が病気になり、入院をすることになった場合、その従業員を解雇することができるでしょうか?
答えは、原則としてNOです。
まず、数週間の入院によって病気の治療が可能な場合は、その後の職場復帰が十分考えられるため解雇はできないと考えられます。
他方で、将来の職場復帰を予測できないほど長期にわたる入院が必要な場合は、労務の提供が不能であるとして、解雇できる余地は出てきます。
また、多くの就業規則には、「病気により◯◯間休業したとき」という解雇事由が定められていると思いますが、この場合は、就業規則で定めた休業期間より短い休業期間を理由として従業員を解雇することは原則として認められません。
なお、病気を理由として従業員を解雇する場合には、労働基準法による制限もあることについても留意してください。
勤務態度や勤務状況の不良
勤務態度が不良というだけで解雇することは、違法な解雇と判断される可能性が高いため、慎重に行う必要があります。
では、どうすればよいのでしょうか?
懲戒処分としての解雇が法律的に有効になるために、いわゆる「積み重ね論」という考えがあります。
「積み重ね論」とは?
まずは、勤務態度不良などがあったときに人事処分として書面で注意を行い、その後、問題社員の勤務態度に問題があればその都度注意を与える、ということを継続的に行います(一般的には、3ヵ月程度が必要とされています。)
特定の部署において、その部署の雰囲気を悪くするような社員の場合、部署の異動を試みるなど、異動・教育その他方法により、問題社員の態度改善に向けて会社として努力を行います。
それでもなお、社員の態度が改められない場合は、戒告・譴責などの軽い懲戒処分を行った上で、さらに改善に向けて会社は教育等の努力を行います。
それでも改善が見られない場合、減給・出勤停止など少し重い懲戒処分を行います。
このように、軽い懲戒処分から徐々に重たい懲戒処分を積み重ねていきます。
これにより、「会社も改善に向けて努力したが、最終的に懲戒解雇という手段しかなかった」と評価され、解雇が正当化されます。
とにかく、焦りは禁物です。
一つずつ段階を踏んで、最終的に懲戒解雇という手段をとりましょう。
弁護士にご相談ください
「積み重ね論」による解雇については、記録の残し方などいくつかの注意点があり、具体的なやり方は会社、業務内容や雇用契約の内容によっても異なります。
なお、総合職採用の従業員(ゼネラリスト)の場合、部署の異動については、会社の人事権の範囲内で有効にすることができますが、特定の職種に限って採用した従業員(スペシャリスト)の場合は、気をつけましょう。
スペシャリストの場合は、他の部署での勤務が想定されていないためです。
詳しくは弁護士にご相談ください。
労働能力欠如
一定の労働能力を備えていることを想定して従業員を採用したものの、その従業員の労働能力が想定していたものより著しく欠如していた場合、その従業員を解雇することはできるでしょうか?
能力欠如の程度にもよりますが、解雇できる余地はあります。
しかし、労働能力の欠如の程度が著しく解雇ができるとしても、会社としてはすぐに解雇するのではなく、従業員に対して労働能力向上に向けた支援を行い、それでもなお従業員の労働能力欠如が是正されない場合に解雇を行うという配慮をするべきです。
経歴詐称
従業員が経歴を詐称していた場合、その従業員を解雇することは可能と考えられます。
しかし、全ての経歴詐称で解雇できる訳ではなく、以下の点を考慮する必要があります。
- 就業規則の解雇事由に経歴詐称が規定されているか
- 経歴詐称の態様
- 経歴詐称が意図的になされたものか
- 詐称された経歴の重要性の程度
- 詐称された部分と会社・詐称した従業員の業務の内容と関連性
- 会社側の提示した求人条件に触れるものか
- 会社が雇用契約締結前に真実の経歴を知っていれば採用しなかったか
既婚社員の社内交際
既婚社員が社内の別の従業員と交際している場合、既婚社員を解雇することができるでしょうか?
結論としては、このような私生活上の行動を理由として解雇することは困難です。
しかし、私生活上の行為によって会社の業務、会社の信用に著しい影響を及ぼしたという事情があれば、解雇できる場合もあります。
法律による解雇の制限
解雇については、法律上、以下のような制限があります。
時期の制限
「労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のため休業する期間及びその後30日間」そして「女性が産前6週間、産後8週間の休みを取っている期間及びその後30日間」には、会社は従業員を解雇することはできません。
差別的な理由に基づく解雇の制限
法律上、以下のような差別的理由に基づく解雇の制限があります。
- 国籍、信条、社会的身分を理由とした解雇
- 女性であることを理由とする解雇
- 婚姻、妊娠、出産を理由とする解雇
- 労働基準法に基づき産前6週間、産後8週間の休業をしたことを理由とする解雇
労働組合
労働組合に関しても、法律上、解雇の制限があり、労働組合の組合員であること、労働組合に加入し、またはこれを結成しようとしたこと、正当な組合活動をしたことを理由とする解雇はできません。
解雇の注意点
解雇が有効か否かの判断は非常に微妙です。
不当に解雇してしまった場合、会社の責任も非常に重くなります。
有効に解雇できるか否かで迷った時は、安易な判断は避け、弁護士に相談し、判断を仰ぐのがよいでしょう。
解雇時点では、文句を言わなかった元従業員が、その後の再就職が上手く行かずに、会社に対して解雇の無効を主張してくることもありますので、細心の注意を払いましょう。