懲役・罰金など労働基準法(労基法)違反の罰則について徹底解説

懲役・罰金など労働基準法(労基法)違反の罰則について徹底解説

労働基準法(労基法)には、使用者(会社)に対する様々な規制が定められ、一部の規制には違反したときの罰則が定められています。

典型例が労働時間に関する規制です。

労基法第32条では、使用者は原則として1日に8時間、1週間に40時間を超えて労働させてはならないとされており、「36協定」を締結したときなど一部の場合に限って例外が認められています。

36協定なしに使用者が時間外労働をさせた場合には、6か月以下の懲役、または30万円以下の罰金刑が科せられます。

今回は労基法に違反したときの罰則について解説いたします。

罰則は4段階

労基法に定められている罰則の重さは4段階となっています(第117条から120条)。

  1. 1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金
  2. 1年以下の懲役または50万円以下の罰金
  3. 6か月以下の懲役または30万円以下の罰金
  4. 30万円以下の罰金

ここからは罰則の重さ別に違反となる行為を解説します。

「1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金」が科される行為

労基法で最も重い罰則が課されるのは、「強制労働の禁止」に違反した場合です(第117条)。

第5条 使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によつて、労働者の意思に反して労働を強制してはならない。

最長で10年間の懲役という重い罰則が科されているのは、強制労働が、憲法が謳う奴隷的拘束・苦役からの自由に違反する重大な行為であるからだと考えられます。

なお、条文上「強制してはならない」と定められていることからもわかるとおり、労働者が実際に労働を強いられたかどうかは問われず、強制した時点でこの規定に違反するものとされています。

「1年以下の懲役または50万円以下の罰金」が科される行為

労基法が定める「中間搾取の排除」「最低年齢」「坑内労働の禁止」「坑内業務の就業制限」に違反した場合です。

第6条 何人も、法律に基いて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。 第七条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。
第56条 使用者は、児童が満15歳に達した日以後の最初の3月31日が終了するまで、これを 使用してはならない。
第63条 使用者は、満18歳に満たない者を坑内で労働させてはならない。
第64条の2   使用者は、次の各号に掲げる女性を当該各号に定める業務に就かせてはならない。 ①妊娠中の女性及び坑内で行われる業務に従事しない旨を使用者に申し出た産後1年を経過しない女性坑内で行われるすべての業務 ②前号に掲げる女性以外の満18歳以上の女性 坑内で行われる業務のうち人力により行われる掘削の業務その他の女性に有害な業務として厚生労働省令で定めるもの

「6か月以下の懲役または30万円以下の罰金」が科される行為

労基法が定める「労働時間」「休憩」「休日」「割増賃金」などの規定に違反した場合です。

数が多いため、ここでは一部の規定のみご紹介します。

第3条 使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない。
第4条 使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱をしてはならない。
第7条 使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、または公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない。
第16条 使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
第19条 使用者は、労働者が業務上負傷し、または疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後30日間、並びに産前産後の女性が休業する期間及びその後30日間は、解雇してはならない。
第20条 使用者は、労働者を解雇しようとする場合においては、少なくとも30日前に解雇予告をしなければならない。 30日前に予告をしない使用者は、30日分以上の平均賃金を支払わなければならない。
第32条 使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて労働させてはならない。また、使用者は、1週間の各日については、労働者に休憩時間を除き1日について8時間を超えて労働させてはならない。
第34条 使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。また、休憩時間は、一斉に与えなければならない。
第35条 使用者は、労働者に対して、毎週少なくとも1回の休日を与えなければならない。
第36条第1項但書 坑内労働その他厚生労働省令で定める健康上特に有害な業務の労働時間の延長は、1日について2時間を超えてはならない。
第37条 使用者が、労働時間を延長し、または休日に労働させた場合においては、その時間またはその日の労働については、通常の労働時間または労働日の賃金の計算額の2割5分以上5割以下の範囲内でそれぞれ政令で定める率(延長した労働時間の労働については2割5分、休日の労働については3割5分)以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。 また、使用者が、午後10時から午前5時(地域・期間により午後11時から午前6時)までの間において労働させた場合においては、その時間の労働については、通常の労働時間の賃金の計算額の2割5分以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならない。
第39条 使用者は、その雇入れの日から起算して6ヶ月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤した労働者に対して、継続しまたは分割した10労働日の有給休暇を与えなければならない。
第65条 使用者は、6週間(多胎妊娠の場合14週間)以内に出産する予定の女性が休業を請求した場合においては、その者を就業させてはならない。 また、使用者は、産後8週間を経過しない女性を就業させてはならない。ただし、産後6週間を経過した女性が請求した場合において、その者について医師が支障がないと認めた業務に就かせることは差し支えない。
第66条 使用者は、妊産婦が請求した場合においては1ヶ月単位の変形労働時間制、1年単位の変形労働時間制及び1週間単位の非定型的変形労働時間制の規定にかかわらず、1週間または1日について法定労働時間を超えて労働させてはならない。

労働時間や賃金は経営者にとって身近な問題ですが、これらに関する労基法の規制に違反したとき、悪質な場合であれば懲役が科される可能性がある点は認識しておくべきでしょう。

「30万円以下の罰金」が科される行為

罰金刑のみが規程されているのは、対象となる違反行為が比較的軽微な労働条件違反および手続違反であるようなケースです。

たとえば2018年の改正により、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して年5日は使用者が時季を指定して有給休暇を取得されることが義務付けられましたが(第39条7項)、これに違反した場合も30万円以下の罰金が科されます。

罰則の対象となるのは誰か?

これらの規定に違反したときに、罰則の対象となるのは「使用者」です。

使用者とは労働基準法上「事業主又は事業の経営担当者その他の事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」とされており、事業主以外にも、部長や課長と言った管理職の者が対象となることがあります。

しかし、労基法は、違反行為をした者が事業主でない場合は事業主、つまり会社そのものも責任を負うとしています(第121条1項)。

これを「両罰規定」といいます。

この場合に事業主に科せられる刑は罰金刑のみで、懲役刑は対象となりません。

ただし、事業主が違反の防止に必要な措置をした場合は罰則を科せられないものとされています(いわゆる過失責任)。

罰則がない規定

労働基準法に定められた全ての規制に罰則が定められているわけではなく、努力義務に留まるものもあります

たとえば労基法第1条第2項に定められている「労働条件の向上」の規定は、条文上「努めなければならない」とされていることからもわかるよう努力義務に留まるものであり、罰則は定められていません。

第1条第2項 この法律で定める労働条件の基準は最低のものであるから、労働関係の当事者は、この基準を理由として労働条件を低下させてはならないことはもとより、その向上を図るように努めなければならない。

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