出張の移動時間は労働時間になる?使用者側の立場から解説!
労働時間とは?
従業員を出張で遠方に行かせる場合、移動時間が発生します。
その移動時間は労働時間となるのでしょうか。
前提として、労働時間の定義について確認します。
行政解釈などによると、労働時間は「労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間」と定義されており、使用者の作業場の指揮監督下にある時間や、使用者の明示または黙示の指示により業務に従事する時間を意味します。
もっとも、「ビル管理人の深夜の仮眠時間」「営業終了後の美容師の練習時間」「トラックのドライバーの荷待ち時間」など、労働時間に該当するか微妙なケースは多々あり、しばしば紛争のタネになります。
「労働時間ではない」が原則
さて、出張の移動時間の労働時間性について、裁判所は次のような判断を示しています。
「出張の際の往復に要する時間は、労働者が日常の出勤に費す時間と同一性質であると考えられるから、右所要時間は労働時間に算入されず、したがってまた時間外労働の問題は起り得ない」
(「日本工業検査事件」昭和46年1月26日横浜地裁川崎支部決定)
「出張時の移動時間は労働拘束性が低く労働時間と考えることは困難であり、たとえそれが車中で自由な行動が一定程度制限されていたとしても、それは事業場内の休憩と同様のことであり、それをもって当該時間が労働時間という解釈は出来ない。」
(「横河電機事件」平成6年9月27日東京地裁判決)
つまり、移動時間は原則として労働時間として認めなくてよいというのが裁判所の基本的な見解です。
通勤時間が労働時間にならないのと同様と考えてよいでしょう。
とはいえ、上司と一緒に新幹線に乗って業務の打ち合わせをしながら移動する場合や、重要な書類を運ぶよう命じられ、常にその書類を監視していないといけない場合には、指揮命令下に置かれているとされる可能性が高いでしょう。
労働者側からの請求に備える方法
退職後に移動時間分の給与を請求されるケースは少なくなく、とりわけ出張が多い職種では「塵も積もれば…」で高額になることもあります。
会社として移動時間が労働時間に当たるという労働者側からの主張に備える方法として、次のようなものが考えられます。
- 「移動中もいつでも携帯電話で連絡が取れるように」などの指示を行わない
- 移動中に携帯電話などで具体的な指示を行わない
- 移動中の行動について具体的な報告をさせない
- 指揮監督を行う者を同行させていなかったことを記録に残す
また出張が多い従業員に対しては、移動時間が原則として労働時間に当たらないことを法律的な根拠と合わせて説明しておくとよいでしょう。
万が一移動時間分を含む未払い給与を請求されたときや、就業規則の整備等でお困りの際は、弁護士にご相談ください。