普通解雇と懲戒解雇の違いとは?
解雇のリスク
従業員の解雇に伴うトラブルは、中小企業が直面する法的リスクの典型例です。
もし「不当解雇」と判断されてしまうと、会社は本来支払うべきであった賃金の支払いに加えて、損害賠償の責任を負うことがあります。
この記事では、解雇の種類や解雇ができる条件について解説いたします。
解雇とは
解雇とは、使用者による労働契約の一方的な解約のことをいいます。
退職勧奨を行った結果、従業員が自主的に退職する場合は「使用者による労働契約の一方的な解約」ではありませんので、解雇には当たりません。
現在の法制度においては、使用者に比べて立場の弱い労働者を保護するという観点から、使用者による解雇には厳しい要件が課されています。
解雇の有効性が争われた過去の裁判例では、使用者側に1000万円以上の支払い命令がなされたものもあります。
解雇の種類
解雇には「普通解雇」「整理解雇」「懲戒解雇」などいくつかの種類があります。
手続によって要件の厳格性や遵守しなければならない手続が異なりますので、一概に解雇すると言ってもどの種類の解雇を選択するかは慎重に判断する必要があります。
普通解雇
普通解雇とは
普通解雇とは、やむを得ない事由があるときに使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。
普通解雇の条件① 「客観的に合理的な理由」
普通解雇を適法に行うためには、普通解雇をするだけの事情(一般的に「客観的に合理的な理由」といいます)が必要です。
どのような場合に「客観的に合理的な理由」が認められるかというと、
- 勤務成績が著しく悪い場合
- 採用時に重要な経歴を詐称していた場合
- 労働者が私病(けがや病気)によって働くことができなくなった場合
などです。
企業によっては就業規則を作成し、規則上で普通解雇に該当する事由を規定している場合も多いかと思いますが、その場合にはそのいずれかの事由に該当するかという観点で判断することになります(詳細は割愛しますが、普通解雇の場合には就業規則に規定された事由に該当しなくても普通解雇が認められると考えられております。)
普通解雇の条件② 「社会通念上相当であること」
解雇が適法とされるためには、解雇をすることが「社会通念上相当」であることも必要です。
つまり、これまでのほかの労働者への処分実績と比較し、今回行う普通解雇が処分として重すぎることはないかという観点から検討することも必要です。
さらに、一般的に解雇は最終手段であると考えられておりますので、解雇を回避するほかの手段では足りないのかという観点からの検討も必要になります。
なお、労働者に帰責事由がないにもかかわらず使用者の経営上の理由で労働者を解雇する「整理解雇」も普通解雇の一種です。
整理解雇の場合には、人員削減の必要性や解雇を避けるための努力をしたか、人員選定に妥当性があるかといった観点から、労働者に帰責事由がある場合に比べてより厳格に判断されることになります。
普通解雇の手続
仮に普通解雇できるだけの事由があるという場合であっても、法律や就業規則に規定された手続を踏む必要があります。
具体的には、普通解雇を行う場合には30日前までに解雇予告をすること(即日解雇の場合には30日相当分の解雇予告手当を支払うこと)、解雇理由証明書を交付すること等が必要です。
また、これ以外にも就業規則の規定に従い必要な手続を行い、退職金の支給についても検討する必要があります。
懲戒解雇
懲戒解雇とは
懲戒解雇とは、労働者が企業秩序を乱す行為を行ったときに使用者が一方的に労働契約を解約することをいいます。
懲戒解雇は懲戒処分(違反行為に対する制裁)の中で最も重い処分です。
懲戒解雇の事由
懲戒解雇を行うためには、まず、懲戒解雇をするだけの事情が必要です。
ここで注意しなければならないのは、普通解雇と異なり、懲戒解雇は就業規則に懲戒解雇に関する規定がなければ行うことができず、懲戒解雇をするだけの事情も就業規則に明記された懲戒解雇事由のいずれかに該当する必要があります。
懲戒解雇の事由として定められる事項は多岐にわたりますが、たとえば、
- 重大な経歴の詐称
- 長期の無断欠勤
- 就業についての上司の指示・命令の違反、業務妨害、職務規律違反
- 私生活上の非行
等です。
いずれも、普通解雇より相当悪質である必要があり、普通解雇で足りると判断される場合には、懲戒解雇としては無効と判断されます。
懲戒解雇の手続
仮に懲戒解雇できるだけの事由があるという場合であっても、法律や就業規則に規定された手続を踏む必要があります。
懲戒処分に先立ち労働者に弁明の機会を与えることは必須ですし、就業規則に規定があれば懲戒委員会を開催することも必要です。
他方で、詳細は割愛しますが、労働基準監督署の除外認定を受けることにより、普通解雇で必要とされていた30日前までの解雇予告(即日解雇の場合には30日相当分の解雇予告手当を支払う)は不要となります。
また、多くの企業では就業規則において懲戒解雇の場合には退職金を支給しない、あるいは一部減額する旨規定されている場合が多いと思いますが、あわせて退職金支給についても確認する必要があります。
最後に
このように、普通解雇と懲戒解雇では解雇事由の判断要素や解雇時の手続が異なりますので、どの解雇が適切であるかは慎重に判断する必要があります。
前述のとおり、懲戒解雇はもちろん普通解雇であっても、解雇の有効性は厳格に判断される傾向にありますし、仮に無効と判断されてしまうと多額の支払いを行わなければならなくなってしまうこともあります。
従業員の解雇を検討するときには、弁護士にご相談することを強くお勧めいたします。
弁護士にご相談いただくことで、個別の事情をお伺いしたうえで解雇事由の有無を判断し、解雇事由が認められる場合は解雇の手続について、解雇事由が認められない場合には解雇以外の手段についてアドバイスさせていただくことが可能です。
また、問題社員を解雇しなければいけないときに備えた就業規則の整備も行っておりますので、どうぞお気軽にご相談ください。
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