厚生労働省によると、福岡県内には平成29年末時点で9887軒の美容室や美容院が存在しています。
これは東京都、大阪府、愛知県、神奈川県、埼玉県、北海道に次いで全国で7番目に多い数字です。
県内の美容師は約24,000人で、このうち約2.6%がほかの美容師を雇用している使用者側の美容師です。
この記事では、美容室の経営者様向けに長時間労働と残業代の問題について解説いたします。
どのようなときに残業代の支払い義務が生じる?
労働基準法の規制
労働基準法には「法定労働時間」が定められており、法定労働時間を超えて労働をさせた場合には時間外労働、休日労働として扱われ、残業代を支払わなければいけません。
当然、美容室も例外ではありません。
法定労働時間は1日8時間、週40時間以下が原則ですが、パートを含む従業員が10人未満の事業所では週44時間が上限となります。
いまだ根強い「徒弟意識」
美容業界では徒弟意識が根強く残っています。
「アシスタント職は将来の独立に備えて夜遅くまで練習をし、技術の習得に努めるのが当然だ」という考えを持っている経営者様も多いかもしれません。
しかし、そのような考え方は危険を含んでいます。
最近では違法な長時間労働が常態化している「ブラック企業」が社会問題化しており、若い人たちを中心に労働に対する意識が変わりつつあります。
美容師も例外ではなく、インターネット上には美容師をターゲットとした残業代請求に関するコンテンツが溢れています。
経営者様が「カット練習の時間に残業代を払うなんてとんでもない」という考えを持っていたとしても、退職した美容師の代理人弁護士から急に内容証明郵便が届き、多額の残業代を請求されるようなリスクは現実的なものとなっているのです。
もし数百万円の未払い残業代を支払わなければいけないということになれば、美容室の経営を揺るがしかねません。
閉店後のカット練習は労働時間?
美容師は労働時間とそれ以外の時間の区別があいまいになりがちです。
美容室の経営者が「労働時間」について正しい理解をしていないことが残業代問題に繋がってしまうケースもあります。
たとえば、お客さんがおらず美容師がカットの練習に使っている時間であっても、使用者の指揮命令下にあれば労働時間にあたり残業代の支払い義務が発生することをご存知でしょうか。
使用者の指揮命令は明示的なものに限られず、黙示的に練習を強制されているような場合にも残業代の支払い義務が発生します。
たとえば、閉店後にカット練習を行わなければお客さんを担当することが認められていないような場合がこれに当たります。
美容室・美容院特有の問題
店長に残業代は不要?
店長など管理職にある従業員に対しては残業代を支払わなくてよいのではないか、というご相談をいただくこともあります。
たしかに、労働基準法では「管理監督者」には休憩を与えたり残業代を支払わなくてもよいと定められています。
しかし、管理職=管理監督者ではありません。
判例によれば、管理監督者とされるためには次の3つの条件を満たしている必要があります。
- 経営者と一体的な立場で仕事をしていること
- 出社、退社や勤務時間について厳格な制限を受けていないこと
- その地位にふさわしい待遇がなされていること
これらの条件を満たさない「名ばかり管理職」の場合は管理監督者とは認められず、残業代が発生する可能性があります。
面借り契約
美容室では、美容師に店舗内のスペースを貸し出す「面借り契約」が利用されることがあります。
このような美容師は従業員ではなくあくまで個人事業主であり、美容室との関係は委任契約、または賃貸契約となりますので、美容室側に残業代の支払い義務は発生しません。
しかし、形式上は面借り契約であっても、事実上は使用者と労働者の関係にあるといえるような場合には残業代が発生するおそれがあります。
労働時間を指定している場合や、細かく業務命令を行っている場合には注意が必要です。
残業代を請求されたら
法律的な反論を行う
では、美容師から多額の未払い残業代を請求されたときにはどうすればよいのでしょうか。
まず相手の主張を整理し、法律的な根拠に基づいているか検討する必要があります。
そのうえで、交渉や訴訟対応を行うことにより、相手の請求を減額できる可能性があります。
具体的には、労働者が労働時間であると主張している時間は使用者の指揮命令下になく労働時間に当たらない、労働者は労働基準法が定める管理監督者に当たる、美容師との契約関係は雇用契約ではなく委任契約や賃貸契約であるといった反論が考えられます。
トラブルを未然に防ぐ対策を
違法な長時間労働や残業代に関するトラブルが発生しないよう、美容師との契約関係を見直し、美容室の労働環境を整えることも重要です。
美容業界では、店舗過剰、低価格化、客数の減少による利益の減少が問題となっており、これらの問題で頭を悩ませている経営者様は少なくないでしょう。
しかし、美容師の人材不足が深刻化している昨今において労働環境を整えることを怠れば、これまでに説明したように残業代を請求されるリスクを負うばかりか、優秀な従業員が定着せず離職してしまったり、場合によっては過労死してしまい遺族から莫大な損害賠償請求をされるおそれすらあります。
たくみ法律事務所と顧問契約を結んでいただくことにより、労務や契約の問題について弁護士に日常的に相談し、長時間労働に頼らない美容室経営を実現することができます。
たくみ法律事務所の弁護士にご相談ください
たくみ法律事務所は、労働者側からの残業代請求に関するご相談は基本的にお断りしている使用者側専門の法律事務所です。
残業代請求や長時間労働の問題でお悩みの美容室の経営者様は、お気軽にたくみ法律事務所にご相談ください。