運送業で労働者が自ら長時間労働をしたいと言ってきたときの上限は?
運送業で、ドライバー自らが長時間労働をしたいと申し出てくる場合があります。
このページではそのような場合の対応について詳しく解説します。
労働時間の上限は必要
ドライバーが自ら長時間労働を申し出てくるのは、多くの場合、たくさん働いて給与を多く受け取りたいというのが理由です。
このようなときは無制限に働かせても問題ないのでしょうか。
結論からいえば、残業代を支払うという前提であれば、一定程度までの長時間労働は構いません。
しかし、度を超えた長時間労働を希望してきた場合には、拒否するのがよいでしょう。
何よりも避けなければいけないのは過重労働による重大事故ですので、長時間労働ができないことで労働者が離職することになったとしてもやむを得ないと考えるべきです。
判断基準は?
では、労働時間の上限はどのように判断するべきでしょうか。
労働時間の上限を考えるときには、『改善基準告示』や厚生労働省などによる『脳・心臓疾患の労災認定』が参考になります。
改善基準告示による制限
会社は、就業規則などに時間外労働に関する定めを置き、労使協定を締結して労基署に届け出ていれば、労働者に残業をさせることができます。
しかし、『自動車運転者の労働時間等の改善のための基準』(改善基準告示)によると、トラック運転手の残業時間は以下の限度までとされています。
1か月の拘束時間(作業時間+手待ち時間)
- 原則、293時間が限度
- 労使協定を締結した場合は、1年の内の6か月までは、1か月の拘束時間を320時間まで延長可能
- しかし、これは、あくまで繁忙期と閑散期の調整に過ぎず、1年間の累計拘束時間が3516時間(293時間×12か月)を超えることはできない
1日の拘束時間
- 基本的に、13時間以内
- ただし、以下の制限の下で、16時間まで延長可能
- 始業時刻から24時間以内に休息期間を継続8時間以上確保する
- 15時間を超えて延長する回数は、1週間につき2回まで
過労死ラインへの配慮
改善基準告示によれば1か月に100時間を越える残業も可能となりますが、いわゆる過労死ラインも考慮すべきです。
厚生労働省などが公表している『脳・心臓疾患の労災認定』によると、労働者が脳内出血やくも膜下出血などの疾病にかかった場合に、次のいずれかに該当すると業務上の災害(労災)に当たります。
- 発症前1か月間に残業時間が100時間を超えた場合、または
- 発症前の2か月間(から6か月間)にわたって1か月当たりの残業時間が80時間を超えた場合
会社としては、労働者から1か月に80時間を越える残業を希望された場合には、その労働者に脳内出血やくも膜下出血などの疾病が発症するリスクが高まることに注意を払うべきです。
ただし、80時間未満であれば残業させても問題ないというものではありません。
というのも、過去の裁判例には、残業時間が過労死ラインに達しない場合でも、シフトの組み方や業務内容などを理由に、労働者に脳内出血などの疾病が発症したと認めたものがあるからです。
国立循環器病センター過労死事件
発症前6か月間における残業時間は1か月当たり約38時間から約65時間であったが、日勤や夜勤などが不規則に組まれ、シフト間隔が5時間程度しかない状況で、入院患者の生活介助の割合が高い業務に従事していた看護師がくも膜下出血を発症して死亡した事案です。
裁判所は、その看護師が就いていた業務は身体的・精神的負担が高いものであったなどとして、くも膜下出血が業務によって発症したと認定しました。
荷待ち時間は労働時間?休憩時間?
トラック運転手が荷物の積み下ろしの間に待機する時間(「荷待ち時間」)は労働時間なのでしょうか、それとも休憩時間とみなされるのでしょうか。
トラック運転手が時間的・場所的に拘束され、労働から離れることを保障されていない場合には、「荷待ち時間」も労働時間に当たります。
たとえば、車列の前進に合わせてトラックを前進させなければならない場合や、積荷を見張るためにトラックを離れられない場合などは、労働からの解放が保障されていないとして、労働時間に当たります。
これは、「荷待ち時間」中にトラック運転手がスマホでゲームをしていたりする場合でも異なりません。
他方で、トラック運転手に対し、指定されたトラック発着時刻まではトラックを離れるなどして自由行動をとることを認めている場合には、その時間は休憩時間に当たり、労働時間ではないと判断される可能性があります。